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国境を越える犯罪の現状

(平成11年警察白書概要)

第1節 国境を越える犯罪の現状

1 グローバリゼーションの治安への影響

(1) グローバリゼーションの諸要素と治安との関係

ア ヒトの移動

近年,我が国の国境を越えた日本人及び外国人の数は,格段に増加している。

このようなヒトの国境移動は,合法的なものに限らず,不法なものも同様に増加している。退去強制された不法入国者の数は,10年には7,472人であり,昭和55年の約12.5倍,平成元年の約3.2倍と急増している。また,近年は集団密航事件が多発していることから,潜在している不法入国者数は相当数に上るとみられる。

国境は,一般的に各国の捜査機関の捜査権限の及ぶ範囲を画するものであるばかりでなく,従来は,犯罪者にとっても,その活動範囲を物理的にも心理的にも事実上制限する機能を有していたが,ヒトの国境移動の増大に伴って,国境の有していた犯罪者の活動範囲を制限する機能が低下してきている。

イ モノの移動

戦後日本経済の成長とともに,対外貿易は大幅に拡大を続けた。貿易の自由化,税関手続の簡素化に伴い,海外の産品を容易に入手,消費することができるようになった。

しかし,同時に,銃器や薬物といった輸入禁制品の国内への流入も続いている。国内において不法に所持されている銃器・薬物のほとんどは密輸入されたものとみられるが,国内で押収されたけん銃の数は,過去10年間,毎年ほぼ1,000丁台に達しており,薬物についても,大量薬物密輸入事件が相次ぎ,「第三次覚せい剤乱用期」という深刻な状況にある。

ウ カネの移動

我が国は,貿易や投資を通じて対外的な資本取引を拡大してきた。また,金融ネットワークの発達と規制緩和により,企業や個人が銀行等を通じて海外へ資金を容易に移動させることができるようになった。さらに,個人レベルでの国際的な支払いについても,国際的に利用可能なクレジットカードによる決済が一般的になるとともに,電子マネーのような新たな決済システムの導入も試みられている。 国際的な金融決済における利便性の向上は,犯罪者に対しても大きな「恩恵」を与えている。第一に,犯罪のための資金や犯罪によって得た収益を,国境を越えて瞬時に移動することが可能となり,捜査当局がこうした資金の国境移動を捕捉することは非常に困難となっている。第二に,犯罪収益が,銀行における顧客秘密の保護が厳格な国や地域に送られた場合,捜査当局がその海外送金先を追跡し,没収することが極めて困難となっている。第三に,電子データの偽変造,データの盗用等の金融システムを悪用した犯罪を,世界中のあらゆる地域から迅速かつ容易に行うことができるようになっている。

エ 情報の移動

情報は,最も迅速に国境間を移動することが可能である。近年における情報通信技術の発達とインターネットをはじめとする国際的なコンピュータ・ネットワークの展開により,世界中から必要な情報を容易に収集したり,世界中に自ら情報を発信することが可能なサイバー・スペースが現実のものとなっている。これは,同時に,ネットワークを使ったハイテク犯罪,サイバーテロ等の脅威に世界中がさらされていることを意味している。

(2) 治安への影響

グローバリゼーションの諸要素は,独立に治安事象に作用しているのではなく,国際犯罪組織や単独で犯行に及ぶ者が国際犯罪を引き起こすための各種の手段として相互に密接な関係を持って作用している。グローバリゼーションの「恩恵」を受けて,国際犯罪組織等は,犯罪にとって最も有利な場所を選択して移動することができ,“相対的”に取締りの弱い国を「抜け穴(ループホール)」として活動することができることとなる。また,国際犯罪組織等は,全世界を結ぶ基礎的産業基盤(インフラストラクチャー)となっている情報通信ネットワーク,金融・商取引システム等の全世界的システムに対し,そのセキュリティの最も弱い場所を攻撃することによって,社会・経済に大きな損害を与えることが可能となる。

国際犯罪を看過し,国際犯罪組織等の暗躍を放置しておけば,やがて合法的な国際取引や移動に対しても悪影響を与え,グローバリゼーションそのもののメリットを減殺してしまうおそれがある。こうした犯罪に立ち向かうため,国内において国際犯罪捜査体制の確立,関係法制の整備等を検討するとともに,諸外国と協力して21世紀にふさわしい新たな国際捜査協力等の枠組みの構築を図っていくことが急務となっている。

2 警察事象の国際化の概況

(1) 来日外国人による刑法犯

ア 刑法犯の推移

警察庁が来日外国人犯罪について統計を取り始めた昭和55年以降,刑法犯の検挙件数,人員は徐々に増加する傾向にあったが,平成2年ころから増加率が一挙に高まり,10年中の検挙件数,人員はで昭和55年に比べ件数で約25倍,人員で約7倍,平成元年と比べても件数で約6倍,人員で約2倍になっている。

イ 平成10年の刑法犯の特徴

10年における来日外国人による刑法犯の検挙件数は2万1,689件,検挙人員は5,382人である。また,来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙状況をみると,重要犯罪については,検挙件数は315件,検挙人員は310人,重要窃盗犯については,検挙件数は5,444件,検挙人員は655人となっている。

(ア) 凶悪犯

罪名別でみると,殺人は,過去最高であった9年と比べると若干減少してはいるものの,過去10年間で検挙件数は2.6倍,検挙人員で約2.3倍となっている。強盗の検挙件数及び検挙人員は,統計を取り始めた昭和55年以降で最高を記録している。また,強姦の検挙件数も55年以降で最高の43件となっている。

平成10年中の来日外国人による刑法犯の検挙人員5,382人のうち不法滞在者1,302人が占める割合は24.2%であるのに対し,来日外国人による凶悪犯の検挙人員251人に占める不法滞在者137人の割合は54.6%と高く,不法滞在者の存在が治安への脅威になっているといえる。

(イ) 窃盗犯

10人以上の共犯者のいる窃盗犯の検挙は,10年中には2,485件となり,10年中の来日外国人による共犯者のいる窃盗犯の27.9%を占めることとなった。これは,我が国の共犯者のいる窃盗犯の検挙全体をみたとき,そのうち10人以上の共犯者によるものの割合が3.1%であることと比べると非常に高いものとなっている。また,我が国全体の窃盗犯の被疑者一人当たりの平均検挙件数は元年以降3.0件前後で推移しているが,このうち来日外国人による窃盗犯の被疑者一人当たりの平均検挙件数は6.2件で元年中の1.3件に比べると急増している。これらのことから,近年,来日外国人による組織的に反復して行われる窃盗事件の増加がうかがわれる。 

(ウ) 知能犯

10年中の知能犯の多くは,偽造クレジットカードを使用した詐欺事件や身分を証明するための旅券,外国人登録証明書等の公文書を偽造・行使した事件となっている。   

ウ 来日外国人犯罪の国籍別検挙状況

10年の検挙状況はアジア地域が全体の75.1%と高い割合を占めており,中国が44.6%を占めている。次いで中南米地域が16.8%を占めており,ブラジルが10.0%を占めている。

近年は,中国人同士の身の代金目的誘拐事件や強盗事件等が多発している。

エ 大都市圏以外の地域への拡散

来日外国人による刑法犯の地域別検挙状況は,10年には関東から近畿地方にかけて増加するとともに,来日外国人犯罪の問題が全国的な問題となっている。

(2) 来日外国人による特別法犯

来日外国人による特別法犯の送致状況は,平成2年ころから急激に増加し,10年中の送致件数,人員は,元年に比べ件数で約4.6倍,人員で約4.9倍となっている。

(3) 薬物問題

ア 来日外国人による薬物事犯

薬物事犯の検挙状況は,平成4年ころから急増し始め,10年中の検挙件数,人員は,統計を取り始めた昭和60年に比べ件数で約5倍,人員で約4倍となっている。国籍別にみると,イラン人の検挙人員が依然として目立っている。

イ 薬物の密輸入事犯の推移

我が国で乱用されている薬物のほとんどは,国際的な薬物犯罪組織の関与の下に海外から密輸入されている。

我が国で最も多く乱用されている覚せい剤は,ほとんどが中国で密造されているとみられる。最近,ミャンマー,タイ,ラオスにまたがる「黄金の三角地帯」及びその周辺地域においても,覚せい剤の密造が急増しており,これらの地域から我が国への覚せい剤の密輸入事犯の増大が懸念される。

ウ 平成10年の薬物の密輸入

密輸入の手口としては,船舶での洋上取引,航空貨物,コンテナ貨物等への偽装隠匿,スーツケースの二重底等手荷物への隠匿,体内への嚥下等が目立っている。 

(4) 外国人犯罪グループによる「地下銀行」及びマネー・ローンダリング

依頼者の金をその本人に代わって国外に不正に送金する業務を行う「地下銀行」が摘発されており,我が国に不法滞在する外国人が,旅券等による本人確認を求められる正規の海外送金システムを避け,犯罪や不法就労で得た収益等を本国へ送金していたものであった。

薬物犯罪に係るマネー・ローンダリングは,麻薬特例法に規定する不法収益等隠匿罪(第9条)又は不法収益等収受罪(第10条)として処罰されるとともに,不法収益等が没収されることとなっている。10年には,薬物不法収益の海外送金を初めて第9条違反で検挙した。

(5) 不法入国・不法滞在者問題

依然として就労を目的として来日する外国人は後を絶たず,観光等の在留資格で入国したにもかかわらず就労をし,また,在留期間の経過後に不法残留をしながら就労するなどの不法就労者もいる。これらは,主として,いわゆる単純労働に従事している。

不法就労者の大半は不法滞在者であるとみられ,潜在的な不法滞在者は相当な数に上るとみられている。就労目的で来日した不法滞在者の中には,不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染める者も多く,大量の不法滞在者の存在は来日外国人による犯罪の温床となっている。

ア 国籍,地域別の不法残留者及び不法入国者の状況

法務省の推計による不法残留者数は,国籍,地域別にみると,韓国が6万2,577人と最も多く,次いでフィリピン,中国,タイとなっている。 また,10年中,警察及び海上保安庁が検挙した不法入国者は1,483人であり,国籍,地域別にみると,中国が1,136人と最も多く,次いでバングラデシュ,フィリピンとなっている。

イ 集団密航事件の多発と悪質化

10年中に警察及び海上保安庁が検挙した集団密航事件は64件1,023人で,依然として多発傾向が続いている。また,国籍別では,中国が全検挙人員の約8割を占めた。

この背景には,国際的な密航請負組織の関与があり,特に中国からの密航にかかわるものとして「蛇頭」と呼ばれる国際犯罪組織がある。

警察は,集団密航事件とりわけ密航請負組織の摘発に努めており,これらの請負行為に適用するため9年に入管法に新設されたいわゆる集団密航に係る罪等で10年中153人を検挙した。

ウ 不法滞在を助長する文書偽造事件等の多発

10年中も合法的な入国・在留を装うための文書偽造事件が多発し,偽造旅券を使用した不法入国事件の検挙件数は国籍別では中国,フィリピン,タイの順であった。また,日本人配偶者として在留資格を不正に取得する偽装結婚事件も検挙している。ほかにも,正規在留者を装うための在留資格認定証明書の交付申請書類偽造事件等も摘発されている。

エ 雇用関係事犯

就労を目的として入国する外国人の数は,依然として高水準にある。原因の一つとして,外国人労働者を雇用しようとする者や就労あっせんブローカーの存在が挙げられ,一部暴力団の関与するケースもみられる。雇用主の中には,彼らを低賃金で雇用する者がみられ,ブローカーは,外国人労働者と雇用主との間に介在して不当な利益を得るなどしている。 また,外国人労働者に係る雇用関係事犯のうち,外国人ブローカーが日本人ブローカーと結び付いて外国人労働者をあっせんするケースもみられる。 

(6) 女性・児童の性的搾取問題

短期滞在,興行等の在留資格で入国し,風俗関係事犯に関与する外国人女性は依然として多いが,これらの外国人女性は,深夜飲食店等における接待行為,さらに,売春,わいせつ事犯等にまで関与しており,地域的にも大都市圏以外の地域にまで広がりをみせている。

風俗営業等に従事する外国人女性の中には,現地及び国内のブローカーにだまされて我が国に連れてこられ,売春を強要されるなどの被害に遭う事案が目立っている。

また,我が国の国民による海外での児童買春行為や,我が国から発信される児童ポルノのインターネット上での氾濫が,

国際会議や海外のマスコミ等で取り上げられるなど,児童買春・児童ポルノ問題は国際的に関心を集めているところである。

(7) 銃器の流入

ア 銃器の密輸入事犯の推移

これまでのけん銃密輸入事犯の摘発事例をみると,航空貨物や国際郵便を利用するものが多くみられるが,大量に密輸入される場合には,貨物船や漁船が利用されている。その手口については,最近では,密輸を小口化したりするなど巧妙化している。仕出国についても,従来の米国,フィリピン,タイに,ロシア,中国等が加わるなど多様化しており,密輸情報の収集や国内外の関係機関との連携強化による水際監視の徹底等が一層重要となっている。

イ 平成10年の銃器の密輸入

10年中に押収された真正けん銃の製造国は米国が最も多く,次いで中国,フィリピンの順となっており,相当数は犯罪組織により密輸入されたものと考えられる。

10年中のけん銃密輸入事犯で押収したけん銃の仕出国は,フィリピン,タイのほか,ロシア,韓国となっている。

(8) 被疑者の国外逃亡事案等

犯罪を引き起こした後国外へ逃亡する者の数は,10年末現在では381人と,過去10年間で最も多い。そのうち93人が日本人であり,フィリピン,米国に多く逃亡しているとみられる。外国人の国外逃亡被疑者を国籍,地域別でみると,中国が最も多く,次に韓国となっている。 10年末現在の日本人を含む国外逃亡被疑者のうち,出国年月日の判明している110人について,出国までの期間をみると,犯行から10日以内の短期間のうちに44人の者が出国している。

警察では,被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合は,出国前の検挙に努め,出国した場合でも,関係国の捜査機関等の協力を得ながら,被疑者の所在を確認し,また,国際刑事警察機構に対し,国際手配書の発行を請求するなど,被疑者の発見及び検挙に努めている。

日本人の逃亡被疑者が発見されたときは,逃亡犯罪人引渡しに関する条約又は相手国の国内法,国外退去処分等により,その者の身柄の引取りを行っている。

3 我が国における国際犯罪組織の活動状況

(1) 外国に本拠を置く国際犯罪組織

近年,外国に本拠を置く国際犯罪組織の活動が全国的にみられるようになった。

ア 蛇頭

平成10年中の集団密航事件に係る全検挙人員の約8割を中国人が占めるが,中国人による集団密航事件の多くには,「蛇頭」と呼ばれる国際的な密航請負組織の介在がみられる。

一般に,集団密航事件の背後には,蛇頭の関与がみられ,集団密航事件多発の大きな原因となっている。最近では,暴力団員とも連携して,我が国に進出し,請負料の取立てをめぐる監禁,誘拐,殺人等の凶悪事件を引き起こす例もみられる。

イ 香港三合会

香港の犯罪組織の総称であり,我が国では,貴金属店における強盗・窃盗事件や広域にわたる偽造クレジットカード使用詐欺事件等の犯罪を引き起こしている。

ウ 韓国人すりグループ

韓国人によるすりは,4,5人がグループを組んで,短期滞在の在留資格等により短期間滞在して広域にわたりすりを行うものであり,犯行が発覚すると,刃物や催涙スプレー等を用いて警察官や被害者に抵抗し,逮捕を免れようとするところに特徴がある。 

(2) 国内に居住する外国人犯罪者のグループ化

我が国において不法滞在者等が,より効率的な利益の獲得を目的として,国籍,出身地等の別によりグループ化し,悪質かつ組織的な犯罪を引き起こしている。最近では,国籍や出身地の別を越えて連携する事件もみられる。

ア 中国人犯罪グループ

中国人犯罪グループ間の利権争いを原因とする殺人事件等の凶悪事件のほか,貴金属店,衣料品店等を対象とする広域窃盗事件,変造通貨を利用した自動販売機荒らし事件等が検挙されている。最近では,大規模な薬物の密輸入に受け手として介在するものもみられる。

イ ベトナム人犯罪グループ

一般住宅の駐車場や家の倉庫に駐車してあったオートバイ等,店内に陳列してあった電気製品,日本製の化粧品等を大量に盗み,組織的に海外輸出する事案等が検挙されている。

ウ ブラジル人犯罪グループ

日系ブラジル人グループによる広域にわたる自動車盗,侵入盗等の窃盗事件等が検挙されている。また,ブラジル人少年が関与する犯罪の増加がみられる。

エ イラン人薬物密売組織

来日イラン人による薬物事犯は,10年も引き続き高水準で推移しており,その多くは不法滞在者によって敢行されている。また,10年中のイラン人による覚せい剤事犯の検挙人員のうち営利犯が占める割合は30.0%で,来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員全体のうち営利犯の占める割合が13.3%であることと比較すると,イラン人による薬物事犯は,単純な自己使用等の目的ではなく密売目的で敢行される傾向が強い。

イラン人密売組織は,複数の薬物を街頭で無差別に売りさばくという密売形態を通じて,「第三次覚せい剤乱用期」における薬物乱用拡大の要因となった。最近では,携帯電話等を利用して巧妙に密売を行う事例が急増しており,潜在化・巧妙化の傾向を強めている。

(3) 我が国暴力団とのかかわり

「蛇頭」と暴力団員が連携した中国人の集団密航事件や中国人女性の不法入国を目的とする偽装結婚事件等が相次いで検挙され,国際犯罪組織と暴力団員が手を組んで不法入国に係る犯罪を敢行している状況が見受けられた。また,暴力団員らが,来日外国人の組織窃盗事件に関与したり,中国人グループを使った強盗等の凶悪事件を引き起こしたりしている。

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