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蛇頭−「密航者飼育」アジト−

(小学館文庫:)

望月健とジン・ネット取材班

蛇頭(スネークヘッド)というなにやらおどおどしい言葉も、ここ数年激増してきた密航事件、加えて日本国内で多発する外国人犯罪への一部「不法滞在外国人」の関与などに関する報道で、今ではすっかり多くの人の知るところとなった観がある。本書は、数多くの報道番組を手掛けてきた映像ジャーナリストたちによるもので、密航、密輸の関係者や蛇頭メンバーを直撃取材し、多くの証言から最新の密航のテクニック、窃盗の手口、密輸方法などを追及した本である。

密航というと、今にも沈没しそうな中国漁船・貨物船に、密航ブローカーに高い金を払った中国福建省を中心とした中国人密航者たちが、すし詰め状態で押し込められながら海を漂い、夜影に乗じて海から上陸をはたすといったようなイメージがつきものかもしれないが、本書を読むと、密航の方法、ルートなどが、複雑多様化しており、手口も高度化していることがわかる。

蛇頭や密航を取り上げた本は他にもあるが、本書の目新しい点は、まず中国人の密航に、カンボジアやタイが深く関わっている事実を挙げ、その状況や背景などを深く追ったことにあろう。著者の望月健氏は、映像通信社の日本電波ニュース元カンボジア支局長(94年5月〜97年5月プノンペン勤務、99年1月ジンネットに移る)で、望月氏が中国人の密航問題に関わりを持つきっかけとなった中国人密航者が絡むプノンペンでの事件から、本書は始まっている。1996年12月にプノンペンで発生した中国人密航者による蛇頭殺害事件、同年同月にプノンペンの北西部の元高級住宅地トゥール・コックで起った中国人密航者大量摘発事件だ。

どうして中国人密航者が、出稼ぎの目的地でもないカンボジアにいるのかと、これらの事件の背景にある問題を掘り下げようと開始された取材で、その事情が明らかにされていく。と同時に、単に「蛇頭」だけでなく、蛇頭「密航者飼育」アジトと、一見奇妙な本書の題名の意味するものがわかってくる。カンボジアに「密航基地」があり、大勢の中国人密航者が隠れ家で共同生活をし、ある時期を待っているわけだ。どうしてカンボジアなのか?という疑問に対しても、カンボジア内の状況だけでなく、隣国タイの中国人密航への関与の実態がつながっていく。

更に衝撃的なのは、蛇頭組織にかかわる日本人の存在で、しかも彼らは、暴力団のようなその手の人たちではなく、カンボジアやタイの居住する「普通の日本人」たちだ。1997年8月、カンボジアを拠点とする日本人蛇頭の存在が初めて公に明るみになったが(事件の詳細はこちらを参照)、本書では、他にもカンボジアやタイ在住の普通の日本人が、アルバイト感覚で蛇頭の手助けをしていることにも触れている。

密航に加え、日本の自動車窃盗とミャンマーでの盗難車売買についても本書でとりあげられているが、こうした密航・密輸・窃盗などの犯罪的側面だけでなく、密航に走る動機や背景、祖国や日本での生活なども取り上げている。蛇頭の存在を生み出す背景には、生活の厳しさや、日本との著しい賃金格差や経済格差があるが、更に誰でも簡単にパスポートが取れ、世界中自由に動ける日本人では理解しがたいことであるが、中国ではパスポートさえ取得するのが困難な人が多いということがある。日本での外国人による犯罪の増加は、確かに大きな社会問題となってきているが、日本に不法滞在・不法就労(不正規に入国・在留)している外国人の大多数は、他の反社会的な犯罪とは無関係に、人目を恐れて地味な生活を送るような真面目な人々であるということが、忘れられてはならないはずだ。

カンボジア拠点の日本人「蛇頭」による密入国事件

1997年8月4日(月)、”親子を装い米国に密入国 日本人「蛇頭」2人逮捕 警視庁 カンボジア拠点にして 他に5,6人活動」という大きな見出し入りの記事が、毎日新聞の社会・事件面を飾った。しかも、日本人を含む蛇頭組織図まで掲載された。この記事の全文は以下の通り。

”密入国目的の中国人を「自分の子供」と装って引き連れ、偽造パスポートで米国に入国しようとした日本人2人が、警視庁国際捜査課に偽造有印公文書行使の疑いで逮捕、起訴されていることが3日、分かった。2人は中国人密航あっせん組織「蛇頭」のカンボジア拠点のメンバーで、他にも5,6人の日本人が同じ組織で活動していると供述している。日本人が蛇頭の直轄メンバーとなっている実態が明らかになったのは初めてで、同課は他の日本人メンバーの特定など組織の解明を進めている。”

”逮捕、起訴されたのは山形県出身で住所不定、中古車販売業、佐藤XX(50) ▽北九州市門司区XXXX、貿易業、中村XX(59)の2被告。(*注:新聞記事では実名及び住所が明記) 調べに夜と、佐藤、中村両被告は今年4月12日、スペイン経由で米国に入国した際、マイアミ国際空港でそれぞれ日本国籍の「中田仁」「三田仁」名義の偽造パスポートを提示した疑い。この際、2人の子供という偽造パスポートを持った中国人男女3人を同行していたため、密航の手引きが発覚。両被告はマイアミでいったん身柄拘束され、日本へ強制送還後、逮捕された。

供述などによると、佐藤被告は約2年前から、中村被告は今年春頃から、カンボジアの首都プノンペンを拠点とする蛇頭に加わった。組織は中国人をトップに約20人が3グループに分かれ、それぞれが偽造パスポートの調達、密航者の募集、密航者の引率・同行を分担。このうち引率・同行を担当するグループの7,8人は佐藤被告らすべて日本人で観光目的の親子を装い、米国に密入国させていたという。不正入国の報酬は一人当たり1,000〜5,000ドル(約12万〜60万円)。入国に失敗した場合は引率を別の日本人メンバーに交代し、成功するまで試みていた。佐藤被告はこれまで密航者を6回手引きし3回成功。こうした「日本人蛇頭」の関与で30人以上を密航させたとみられる。

蛇頭の日本人メンバーはいずれも50〜60歳代。過去に貿易関係の仕事などを通じて知り合った者が多く、佐藤被告は最近、一時帰国し、英語が話せる知人を勧誘したが断られたという。同課は、取り締まり強化によって日本への入国が難しくなった蛇頭が、国情不安定なカンボジアに新たに拠点を設け、日本以外への密入国を活性化させているとみている。”

同日8月4日、毎日新聞夕刊では続報として、逮捕された日本人2人と同じ組織に所属していた別の日本人男性3人が、イタリア、フランス、香港の各捜査当局に逮捕されている事が、警視庁国際捜査課の調べで分かったと報じた。この3人は同年春、偽造パスポートを使用して入国しようとした疑いで各捜査当局に逮捕されていたが、いずれも中国人密航者を引率して米国に向かう途中とみられている。

日本人が直轄メンバーとして関与するカンボジアを拠点とする蛇頭グループの存在を明らかにするきっかけとなった佐藤被告の逮捕であったが、この佐藤被告に対する初公判は、1997年8月5日、東京地裁で開かれ、佐藤被告は起訴事実を全面的に認めた。同被告に対する判決公判は、1997年11月26日、東京地裁で開かれ、金山薫裁判長より「組織的犯行に加わった罪は重い」として、懲役2年6ヶ月(求刑は懲役3年6ヶ月)の実刑判決が言い渡されている。

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