Make your own free website on Tripod.com

パワー・ポリティックスから見たアジアの国際情勢

【第5回 価値の主張で地政学を乗り越えよ】

―― お話を聞いていますと、これから10年のアジアというのは非常に不安定な時期を迎えますけれども、そのなかで日本外交の基本姿勢において自由や民主主義や人権を言っていくというのは、非常に重要だなと感じました。

というのは、中国、朝鮮半島という、この地政学的な問題はどうしようもなく変えられない面がありますけれど、価値の問題をそこに置き換えることによって、地政学を乗り越えることが可能ではないかと思ったのです。その面から、日本外交がこれからの10年どのような基本姿勢をもって歩めばいいのかについて、教えていただけませんでしょうか。

中嶋嶺雄 おっしゃる通りですね。つまり、日本は中国とは同文同種であるとか、一衣帯水と言われますけれども、このことと現実に中国社会を動かしている政治システムなり経済システムというのは、まったく別問題なのです。ところが、なんとなく中国は古い国だと……中国は実はまだ建国50年しかたっていない新しい国、中華人民共和国なのですが。過去の秦の始皇帝の時代につくった万里の長城など、いまの中国とまったく関係ありませんから。

それを錯覚して、古い歴史を持つ中国、日本がかつていろいろ学んだ中国と考えてしまうから、それこそ地政学的な発想にとらわれているということです。現実の中国はそうではないのですから、そこから目覚めるということが大切な一つです。

そのためには、日本が明治維新以来、近代国家として蓄積してきたものを改めて自覚し発信することではないでしょうか。戦後の日本の発展の基礎は、科学技術にしても工業にしても、製造業を中心としてやってきた。そして教育の層が非常に厚かった。それらの基盤の上に、日本は独自の発展をしてきたわけです。

―― それを発信することは、先におっしゃったここ10年における「アジアの思い上がり」をただすことにも、自然とつながりますね。

中嶋 そうです。もちろんさらにさかのぼって、日本固有の文化、伝統といったものもあります。ここで多くは触れられませんが。

こういう点を考えてみると、中国とはずいぶんちがいます。ですから、地政学的にはすぐそばにあるアジアの大国同士とはいえ、そこに日本のユニークさ、日本の個性というものをもうちょっと発信していかなくてはいけないと思います。

その発信力が日本は決定的に弱いし、それから発信していくためには、それなりの自信を持たなくてはいけませんね。もちろん発信する中身を持っていなければいけないのですけれど。しかし、その中身はすでに非常にいいものをたくさん持っているのです。

日本は潜在的にはものすごくいいものを持っているし、アジアの期待も大きい。世界第二の経済大国であることはまちがいないわけです。にもかかわらず、いま世界で2番目に見られているかというと、まったくそうではないというのは、やはり発信というところに問題がある。技術がないということもありますし、根本的な理念なり哲学がないということだと思います。ですから、それをきちんと打ち立てていくことが喫緊の課題だと思います。

自由とか民主主義とか市場経済とか人権の問題、あるいは環境の問題も含めていいのですが、そういう21世紀のグローバル化の時代に対応できる日本の位置づけというものを早くきちんとしていかなければいけない。それがあれば、常にその上に外交でもなんでも考えていくことができます。

―― すでに非常にいいものを持っているにもかかわらず、発信の仕方が下手だというのは、これは非常に残念なことですね。

最後に、中国と朝鮮半島が非常に緊密になったとき、当然日本とアメリカとの関係が非常に微妙になってきます。日米関係のあり方ということに関してはどうでしょうか。

中嶋 これはさっき言った根本に戻ると、中国が共産主義体制をとっているかぎり、アジアには冷戦があるわけです。日本は共産主義体制は国家としてはとっていない。ですから、あくまでも自由と民主主義という立場から、アメリカとの関係をきちんとしておかなければならない。

日本自身がどんどん軍事力を増強することは、日本の体質としてはできませんから。そうであるかぎり、中国がアジアにいろいろ問題を持ち出すことに対しては、きちんと抑止する体制をつくっておかなければいけない。いまの現実では、やはりアメリカの軍事力と日本の防衛力というものをリンクさせていく以外にないんじゃないでしょうか。

また、まさに建国の理念からしても、アメリカはその点は妥協しないと思います。ですから、台湾海峡に中国が軍事圧力をかけようとしたとき、民主党政権であっても航空母艦を2隻断固として派遣した。

これは大きな教訓ですね。台湾海峡の危機の後に、日米安保協議が行われ、共同宣言が出されました。その後にガイドラインが出てきました。このリンケージというのは非常に大事ですから、当面ここに日本の安全保障上の基盤を置くべきだと思いますね。そこはアメリカというのは信頼できる国だと考えておいていいと思います。

―― できるだけ、日本としてはすでに動いている地政学的な問題を、価値の問題に置き換えて、グローバルに解決していったほうがいいということでしょうね。

中嶋 そうですね。それと最近、日本政治の貧困ということが言われるのですが、台湾の場合は李登輝前総統にしても、いまの陳水扁総統にしても、非常に発信力を持っているのです。アメリカも今度の大統領選挙で、いろいろ開票をめぐって混迷があったけれど、ものすごい発信力をあれによって逆に持ったという意味も見出せます。このことがアメリカ社会をかなりリバイタライズするんじゃないかと思いますよ。

日本がモタモタしていると、アメリカからも相手にされなくなるという気がします。この点をしっかり考えておかなければいけないと思いますね。日本は経済的には、潜在的に大きな力をもっている。にもかかわらず、政治の貧困、外交の貧困というものがあるかぎり、アメリカをして「もう日本はパートナー足りえない」と言わせるかもしれない。

それは、日本は非常に困ると思うのです。経済の面でもそうですが、そこはもう一度きちんとしたスタンスを固めて、日米関係というのは非常に大事だということを認識していく必要があるんじゃないかと思いますね。

―― ありがとうございました。

(全文終了)

Copyright(C)2002- 「日本専門」情報機関(日本の情報の収集と保存)