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中国ナショナリズムの脅威

(2004年02月01日 産経新聞朝刊)

古森義久

米国の中国研究者の間で中国のナショナリズムの危険を指摘する向きが多くなった。
 そうした指摘は中国の過激なナショナリズムが日本に向かって最も激しくぶつけられ、日中関係をゆがめている、と説く場合が多い。

今年一月に若手中国研究学者のピーター・グリース氏が出版した「中国の新ナショナリズム」という書も中国の日本に対する謝罪要求などを実例として、中国のナショナリズムの構造や意図をそんな趣旨で解説している。

コロラド大学助教授のグリース氏の同書は副題に「誇り・政治・外交」とあるように、中国のナショナリズムは共産党指導部が党の統治の正当性を誇示し、国内の団結を図り、さらに外国からの譲歩を勝ち取るために人為的にあおっている側面だけでなく、国民のエリート層が過去に自国が諸外国に侵略されたことや、現在の自国がなお後進性を残すことに真の怒りや被害者意識を感じているという自然な側面があることを指摘する。

グリース助教授はそして一九九八年の江沢民国家主席(当時)の日本に対する謝罪要求をケーススタディーとして、この種の要求が日本からの経済援助などの実利を得るための計算された戦略であると同時に、中国側に広範に存在する日本への怒りと憎しみのナショナリズム心情から自然発生する動きなのだ、とも解説する。

だがこの解説でとくに注目されるのは、中国側の心情としての謝罪要求はたとえ日本側がいくら謝っても、中日関係で中国が優位、日本が劣位という上下の秩序が確立されない限り、決して満足されない、と分析する点である。日本にとっては中国のナショナリズムに振り回されるな、という教訓だといえよう。

類似の点はニューヨーク・タイムズの外交専門記者ニコラス・クリストフ氏が昨年十二月に同紙に書いたコラム記事でも指摘されていた。中国に詳しい同氏は「中国の脅威?」と題するこの記事でいまの中国に関して心配させられるのは核兵器の増強よりも「中国政府が若い国民に植えつけた高揚するナショナリズム」だと警告する。そしてこの種の盲目的ナショナリズムが国際的不安定を引き起こす最大の表示こそ中国の日本への態度だ、と述べている。

クリストフ記者はそのうえで最近の西安で起きた日本人留学生の寸劇を非難した反日デモの爆発や、珠海での日本人観光客の買春を非難した対日抗議の拡大をナショナリズムによる過剰な反発だとし、自国の各都市で売春が堂々と横行する中国の買春非難は偽善だとも批判した。

同記者はさらに中国側が過去の戦争の歴史をもナショナリズムのあおりでヒステリックに誇張していると指摘する。

その実例として同記者は南京事件を取り上げ、次のような趣旨を述べる。

「中国側の死者数について当時の南京にいたドイツ人のジョン・ラーベ氏は五万から六万、米国人のM・S・ベイツ氏が民間人一万二千、軍人二万八千、国際連盟の中華民国代表は民間人二万、中国共産党の新聞も四万二千、という人数をあげてきた。だがいまの中国当局は精査にはたえない主張に基づき三十万人以上が日本軍に殺されたと唱えている。そんな誇張は歴史をゆがめることであり、中国を被害者国家として描き、ナショナリズムをさらにあおって、対外的な侵略志向を生む」

つまりクリストフ記者は中国側の「南京大虐殺の死者は三十万人以上」という主張はウソだとはっきり断じるのである。

同記者はさらにこの種のナショナリズムの扇動は中国当局に尖閣諸島の領有権争いなどで日本に対して強硬な態度をとらせ、衝突を起こす危険を生み、国際紛争全般でも強硬な政策をとらせて、台湾問題をめぐって米国との戦争さえ起こしかねない、と警告するのだ。

同記者は中国当局のナショナリズムのあおりの理由として「指導部が共産主義のイデオロギーが薄れるにつれ、国家の団結を保つ新たなきずなを求めた」ことをあげ、中国軍部がナショナリズム高揚のために「台湾の住民投票や独立の志向は日本の秘密の謀略の結果だ」と主張していることをも記している。

だから国際社会にとって中国の真の脅威は人為的で過剰なナショナリズムなのだ、というわけである。わが日本も官民でこういう主張をそろそろ中国に直接、ぶつけるべき時機であろう。

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