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朝鮮総聯がまるごとわかる十問十答

(別冊宝島 特別編集宝島30 1994年12月号特集「朝鮮総聯の研究」)

朝鮮総聯はなぜ生まれたのか?組織と活動はどうなっているのか?また日朝国交成立後、朝鮮総聯と在日朝鮮人の法的地位はどうなるのか?

金容達(在日朝鮮人研究家)

Q1:朝鮮総聯とは?その政治的立場は?

正式には、在日本朝鮮人総連合会という。「朝鮮総連」あるいは「総連」と略称されている。韓国サイドでは、「朝総連」(ちょうそうれん)と言っている。朝鮮総連では、公式には「連」ではなくて「聯」の字を使う(以後、朝鮮総聯と表記)。

日本に定住している韓国・朝鮮人のなかで、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を支持する政治的立場をとり、自らを北朝鮮の海外公民(北朝鮮では国民のことを公民と言う)であると位置づけている人たちの団体である。この組織のなかでは、本国北朝鮮の政治思想(金日成・金正日への個人崇拝)に同化することが強制される。

新興宗教団体のようなイデオロギー・コミュニティの性格が強い。したがって、朝鮮総聯の構成員は、自分たちのことを韓国人とは言わず、朝鮮人と称している。この場合の「朝鮮」とは、あるときは朝鮮半島の北半分の朝鮮民主主義人民共和国をさし、あるときは大韓民国(韓国)を否定あるいは包含した朝鮮半島全部の統一朝鮮をさして、適宜にその意味を使い分けている。

朝鮮総聯は、朝鮮民主主義人民共和国のことを「共和国」と略称し、韓国のことを「南朝鮮」という。ちなみに、韓国では、朝鮮という用語を国名や民族名に使わず、北朝鮮を「北韓」(ほっかん)と呼び、韓半島、韓民族などと言う。

Q2:朝鮮総聯の組織は?その法的性格は?

朝鮮総聯は、活動目的を明らかにする綱領と、組織の構成・活動原則・会員の権利と義務を決めている規約を有する。その代表者は、中央委員会の議長で、韓徳銖が組織結成(一九五五年五月)から今日にいたるまでその地位に就いている。なお、韓徳銖議長は高齢(八十七歳)で、今年の四月に病気療養の名目で北朝鮮に召喚させられたりして、現在、総聯組織の実質的なトップは許宗萬責任副議長である。

法人ではなく、法的には任意団体であるが、多数の構成員を有し、規約にもとづいて組織的に意思決定し、代表者によって行動し、団体の独立財産を有するので、法律上の「権利能力のない社団」にあたる。法人格がないので、朝鮮総聯としては財産の所有名義人にはなれず、その不動産などの登記上の所有者は、議長ら幹部の個人名か会社名義になっている。

その組織体系と機構は図のとおりであるが、各種多様な傘下団体と事業体を抱え、また保育所・幼稚園から大学・教員養成機関までの体系的に一貫した民族教育施設(朝鮮人学校)を日本中に配置し、組織内部で独自に教育を実施するとともに、自前で組織の人材を養成し供給している。

朝鮮人学校を組織基盤とし、中央本部-地方本部-支部-分会という政治組織を骨格にし、青年・学生・女性団体、商工会、信用組合、教育会などの傘下団体を手足にして、銀行(朝飯信用組合)や、新聞社、通信社、出版社、研究所、芸術団体、貿易会社からパチンコ直営会社にいたるまで「ないものはない」と言われるほどの事業体を運営する朝鮮総聯は、あたかも国家のなかの国家の体をなしている。それが北朝鮮政府の指令によって活動しているのであるから、まさに日本列島内「北朝鮮分国」である。

Q3:朝鮮総聯の役割は?どんなことをしているのか?

朝鮮総聯の組織としての役割は、四つの側面から見ることができる。

第一は、在日同胞の民族的大衆団体である。在日同胞の民族問題、生活問題についての協助組織として、あるいは差別撤廃のための連動体としての役割だ。大衆団体としては、政治信条にかかわりなく広く同胞を包摂するのが本来のあり方であるが、北朝鮮支持の立場から、運動の政治的偏向はまぬがれない。

この役割において、朝鮮総聯の最大の功績は、朝鮮人学校の運営による民族教育の確立である。戦後の日本政府によるたび重なる民族教育への弾圧に抗して、学校を守りぬき、日本生まれの祖国を知らない世代の民族性確立に果たした業績は特筆に値する。

朝鮮総聯の組織の強さは、民族学校を同胞の結集の場にし、その卒業生による人的ネットワークを広範に築きあげているところにある。ただし、この総聯の学校における教育は、本来の民族教育から逸脱し、金日成主義・金正日主義(金日成や金正日の指導に無条件絶対的に服従するというもの)の政治思想教育に偏向して久しい。

また、帰国して北朝鮮の国家建設の人材となるための教育が、日本定住という現実からかけ離れてしまって生徒数が急減しており、その危機感から、近年、その是正の努力がなされている。

第二は、朝鮮労働党の日本支部である。

朝鮮労働党(北朝鮮における一党独裁政党)の直接指導の下で、日本において政治工作活動をするという前衛党的役割こそ、朝鮮総聯の本質だ。そのため、総聯組織の内部には、朝鮮労働党の準党員組織である「学習組」と呼ばれる非公然組織が存在する。学習組の組員は、北朝鮮の南朝鮮武力解放路線にもとづき、日本を拠点にした対韓国政治活動(対南工作。日本から政治工作員を韓国に送り込んだり、日本に来た韓国人を抱き込む活動)や、総聯の対抗組織である韓国政府支持の在日本大韓民国民団(民団)の組織を切り崩す政治工作(団合事業という)を秘密裏に展開している。

北朝鮮から日本に密入国する政治工作員(いわゆる北朝鮮スパイ)を援助するのも、総聯内部の分派を除去し、日本での北朝鮮民主化運動を暴力的に妨害するのも、学習組の任務だ。

この北朝鮮独裁政権の手先になりさがった政治活動こそ、朝鮮総聯の「影」であり、運動の合法性を破るもので、組織上の最大の矛盾となっている。

第三は、北朝鮮政府の駐日外交代表部である。

北朝鮮は日本と国交がなく、日本に在外公館(大使館・領事館)がない。したがって、北朝鮮政府は日本の政府や民間に対する正式の窓口をもたないわけであるが、その窓口を実質的に代行しているのが朝鮮総聯だ。

また、北朝鮮の海外公民である在日朝鮮人に対して、北朝鮮政府に代わって領事事務をしているのも朝鮮総聯である。在日朝鮮人が北朝鮮を訪問するとき、朝鮮総聯の許可が北朝鮮政府の入国許可となる。それに総聯の中央常任委員会が北朝鮮のパスポートを発行している。もっとも、日本では未承認国のパスポートは正式の旅券として認められないので、その北朝鮮パスポートは北朝鮮の入出国時に使用する。

このように朝鮮総聯の中央本部・地方本部が北朝鮮政府の大使館・領事館の役目を果たしているのであるが、それはあくまでも事実上のことであって、総聯の本部役員に外交官特権があるわけでもなく、本部事務所が治外法権の場であるわけでもない。

第四は、北朝鮮の在外経済部(在外商社)である。

極端に閉鎖的な社会主義経済構造の北朝鮮にとって、資本主義社会との経済交流のためのパイプとなり、西側の先進科学技術の導入の窓口になっているのも朝鮮総聯だ。

また、さまざまな名目の献金を在日朝鮮人から吸い上げて北朝鮮に送金し、北朝鮮の経済建設に必要な資材・機械などを身銭を切って調達している。いまや瀕死の状態にある北朝鮮経済の「酸素マスク」であるとまで言われている。

朝鮮総聯は、北朝鮮政府の資本主義世界のなかの「出島」であるとともに、在日朝鮮人に対する経済的収奪機構にもなっているわけだ。

Q4:朝鮮総職の歴史は?どのような経緯で生まれたか?

一九四五年八月の敗戦(朝鮮の解放)とともに、日本在住の朝鮮人は各地にいろんな団体をつくったが、これらを結集して在日本朝鮮人連盟(朝連)という細織を結成し、政治犯釈放、帰国援護、生活権確保、民族教育などの活動を展開した。やがて総聯は、共産主義者の指導部が主導権を握り、またアメリカの南朝鮮政災や占領軍(GHQ)の占領政策と対立したので、四九年九月にGHQにより強制的に解散させられ、財産をすべて没収されてしまう。

その後、朝鮮戦争になると、在日朝鮮統一民主戦線(民戦)という後継組織をつくり、北朝鮮軍側に立って在日米軍の武器・弾薬の輸送を阻止する闘争をするとともに、日本共産党とともに日本の社会主義のための革命闘争を展開した。それらの闘争の軍事細繊が祖国防衛委員会・祖国防衛隊(祖防)という非公然組織であった。

この民戦・祖防の時代は、組織の活動家はすべて日本共産党の党員であり、日本共産党の指導を受けていた。「日本の革命なくして朝鮮の独立なし」というのが活動の基本命題であった。

そして、朝鮮戦争停戦後、「平和五原則」などの東西冷戦緩和の世界的潮流を背景として、北朝鮮政府の指令により、日本の革命運動には参加しないという「内政不干渉」の原則を立て、北朝鮮の在外公民として祖国の独立・統一のために活動するという方針に転換した。これを在日朝鮮人運動の階級主義から民族主義への「路線転換」という。

この路線転換により、朝鮮人活動家は日本共産党から離党し、民戦・祖防の組織を解消して、一九五五年五月に現在の在日本朝鮮人総聯合会(総聯)を新たに結成した。以後、朝鮮総聯は、北朝鮮の祖国統一民主主義戦線に団体加盟して、朝鮮労働党統一戦線部の指導下にあり、在日の大衆団体であるという表看板とは裏腹に、政治的には完全に北朝鮮政権に従属している。

一方、朝連、民戦・祖防、総聯という流れの左翼的運動に反発する反共主義者らのグループは、大韓民国を支持する政治的立場から在日本大韓民国居留団(民団)という組織に結集した。そして、民団も総聯も、本国の南北政権の政治的傀儡となり、朝鮮半島における対立をそのまま日本に持ち込んでいる。

なお、朝鮮総聯は、民戦・祖防の時代に日本政府打倒の過激な運動をした経緯から、破壊活動防止法(破防法)の適用容疑団体に指定されており、公安調査庁によって常時、動向調査をされている。

Q5:「朝鮮籍」「韓国籍」とは何か?その人数はどうなっているのか?

日本の制度である外国人登録の国籍欄に「朝鮮」と記載されている者が朝鮮籍であり、「韓国」と記載されている者が韓国籍である。在日韓国・朝鮮人社会を政治的に色分けするレッテルになってしまっているものだ。

日本での外国人登録は、朝鮮で南北政権が分離樹立される以前に始まり、当初は国籍欄の登録は出身地域を表示するものとして、すべて「朝鮮」であった。しかし、その後、日本が韓国だけと国交を結ぶといういびつな国家関係になり、韓国政府の国籍証明(在外国民登録証か韓国パスポート)を取った者については、国籍欄の表示を「朝鮮」から「韓国」に書き換えることを認めたため(「韓国」から「朝鮮」への再書き換えは原則として認めていない)、国籍欄の記載をめぐって総聯と民団が綱引きを始め、双方の勢力を測るバロメーターのようになってしまったのである。

日本政府は外国人登録の統計の一つとして、国籍欄の記載別内訳数も公表していたが、総聯・民団の政治抗争の具となったため、七〇年代になり内訳数の発表をしなくなった。表の九二年末の数字は、問い合わせに対して法務省が電話回答してくれたものである。

最近、韓国の新聞『東亜日報』(九月二十五日付)に、「朝総連系在日僑胞の韓国国籍への変換が急増…九〇年以後二万四千名」という見出しで、次のような記事が掲載されて目を引いた。

「北韓国籍の朝総連系在日僑胞が、韓国に国籍を換えることが最近になって年々増えている。外務部が、二十四日、国会の外務統一委員会に提出した資料によれば、九〇年から今年の七月までに、このように国籍を換えた在日僑胞は、計二万四千四百九十名に及ぶことが明らかになった。九〇年の六千六百六十七名をはじめとして、毎年四千余名ずつで、今年は七月までで、すでに四千二百八十七名である。外務部では、北韓の核問題などにより国際社会の対北非難世論が高まるにつれ、北韓政権に対する懐疑が深まったことと、北韓国籍に比べ韓国国籍を持つ方が海外旅行が容易である点が、要因らしいと分析している」

文中の「僑胞」は海外在住韓国人をさす韓国での用語であり、「外務部」は韓国の外務省にあたるものだ。

この記事の内容は、要するに、ここ数年、「朝鮮籍」から「韓国籍」への書き換えが急増し、朝鮮総聯からの組織離れが雪崩のように進行しているということである。

Q6:朝鮮総聯の勢力規模は?どのくらいの人数が所属しているのか?

今年の三月三十日の衆議院予算委員会において、公安調査庁の緒方重威長官は、国会議員の質問に答えて、次のように述べている。

「在日韓国・朝鮮人は総数で六十八万六千人。これをそれぞれの系列で分けますと、民団系が三十六万九千人で五四%、総聯系が二十四万七千人で三六%、その総聯系のなかで朝鮮総聯にはっきりと加入しておる数字が五万六千人で八%、それ以外でも民団でも総聯でもない中立系が六万三千人で九%というふうな数字を把握しでございます。

朝鮮総聯の組織の勢力でございますが、中央組織があり、我が国の全国各地に県本部を有し、さらに支部、分会を有しており、このほかに中央組織の傘下に十八の大衆団体と二十三の事業体を擁しておりまして、それぞれの活動に従事しており、このほかに非公然組織として学習組、約五千人という者が非公然活動に従事しているというふうに承知しているところでございます。

朝鮮総聯の在日朝鮮人の教育施設として、大学校が一つ、高級学校が十二、中級学校が五十五、初級学校が七十九の計百四十七校、いずれもこれは法令の認可による各種学校でございますけれども、生徒は約一万七千四百人おるということでございます」

この答弁では、何が「総聯系」で何が「総聯加入者」なのか、その区別が判然としないが、前問の「朝鮮籍」の人数も含めて、三段階のレベルで言えば、在日韓国・朝鮮人定住者六十万人を基数にして、

●総聯系/二十四万七千人(約四〇%)
●朝鮮籍/十五万人(約二五%)
●総聯加入者/五万六千人(約一〇%)

ということになるだろうか。

Q7:朝鮮総聯の民族学校の現状は?

日本政府が日本に定住する外国人に民族教育の権利を法的に保障せず、朝鮮総聯の民族学校を「共産主義者の巣窟」であるとして治安問題視してきたなかで、朝鮮総聯に結集した在日朝鮮人たちは、弾圧に屈せず営々と努力して、保育教育から大学院課程までの体系的に一貫した民族教育システムを築き上げてきた。朝鮮総聯が運営する朝鮮人学校は、まさに「風雨のなかでたくましく育った大樹」であると形容できる。

朝鮮総聯の民族学校は、日本の教育法体系のなかでは、学校教育法第一条に定められた教育基本法上の正規の学校(これを「一条校」という)ではなく、学校教育法第八三条に定める「各種学校」として認可されている。また、学校運営主体としては、各都道府県や地域ごとの朝鮮学園が「学校法人」として認可されている。

日本政府からの財政的援助を受けないかわりに、文部省の教員採用試験や教科書検定といった介入を回避しているわけだ。このような厳しい条件の中で、日本で生まれ育った子供たちに民族的素養を培ってきた。朝鮮総聯の学校なくして、在日韓国・朝鮮人社会の民族性保持はなかったと言っても過言ではないだろう。

しかし、朝鮮人学校のなかでは、朝鮮民主主義人民共和国の公民教育が行なわれて、教室には金日成と金正日の写真が掲げられ、各種行事では金日成と金正日の讃歌が歌われるなど、戦前の日本の天皇制教育のような洗脳教育がまかりとおり、大樹を蝕んできた。

自由競争社会である日本において、その個人崇拝教育の非合理性は明らかであるので、朝鮮人学校への入学者は年々減少し、朝鮮総聯の組織基盤を大きく揺るがせている。

韓国の北朝鮮情報専門の通信社である内外通信社は、『内外通信』第九一四号(九四年八月十八日付)で、朝鮮総聯の最近の学校運営の状況を次のように伝えている。

「朝総選は、最近、傘下の学校の深刻な財政難にともない、運営財源を工面するため、各種の運動を展開している。この運動は"学校愛運動"の名の下に、日本の全域に散在している各学校で大々的に展開されている。こういった事実は、朝総連のある教育関係者がピョンヤン放送とのインタビュー(九四・七・二六)において、朝総連が運営している学校が『深刻な財政難に苦しんでおり、教育財源を確保するため、多様な形の学校愛運動を展開している』と明らかにしたことにより広く知られた。

朝総連は、九一年末現在、日本の四十七都道府県中の二十七の地域に、大学一、高級十二、中級五十五、初級八十三の計百五十一の学校を設置し、運営している。これらの学校を連営するためには、年間七十、八十億円の運営費が必要であるが、連営財源の構成比率(八九年基準)を調べてみると、△学生納入金・三五%、△商工人賛助金・二五%、△北韓の援助金・一〇%、△朝銀信用組合借入金・一〇%、△直営事業体収益金・五%、△日本の地方自治体の支援金・三%、△その他の寄付金・一二%となっている(学校運営費は、八九年・七十四億円、九〇年・七十八億円、九一年・八十四億円)。しかし、学校運営財源の七〇%を占める学生納入金・商工人賛助金・北韓援助金が、学生数の減少と朝総連商工人の賛助金の回避、そして北韓からの教育支援金の金額が大幅に減少されていることにより、いっそう深刻に経営を圧迫している。

朝総連傘下の学校の学生数減少は、初・中・高の教育課程の学校と唯一の大学である朝鮮大学校などすべての教育機関が、日本の文部省の認可を受けていないので、卒業後に再度、検定試験を通じて学力検定を受けなければならず、教科課程も金日成・金正日偶像化宣伝第一に編成されていて、卒業後の就職はもちろん、日本社会への適応が難しいと判断して、学生たちが入学を回避していることによるものだ。

このため、朝総連系学校の学生数は、八五年・二万二千、八七年・二万、九〇年・一万九千、九三年・一万七千四百名と急激に減少し、学校財政難を深刻化させている。北韓からの教育支援金は、八九年・六億八百万円、九〇年・十一億四千万円、九一年・二億六千五百万円、九二年・三億八千百万円、九三年・三億二千七百万円、九四年七月末現在・二億千三百万円と、毎年減少されており、実際の学校運営資金の構成比率においても一〇%を下回っている」

Q8:北朝鮮帰国事業とは?朝鮮総聯に及ぼした影響は?

一九五九年八月に日本と北朝鮮の赤十字社の間で結ばれた「在日朝鮮人帰還協定」にもとづいて、同年の十二月から、在日朝鮮人が新潟港から帰国専用船で北朝鮮に集団永住帰国したことを言う。赤十字の協定によったのは、日本・北朝鮮間に国交がなかったためであり、乗船までの費用を日本政府が負担し、帰国船の配船と帰国後の生活を北朝鮮政府が保障するというものであった。

帰還協定は、六七年まで継続し、この間に約九万人が帰国した(このなかに約六千八百人の日本国籍者が含まれる。その多くは日朝二重国籍者であるが、日本単独国籍の日本人妻が約千八百人いた)。「祖国への帰国」とは言うものの、実質は、社会主義国・新天地への「移民」であった。

この集団帰国の背景には、五〇年代の貧困と差別にあえぐ在日朝鮮人社会の閉塞状況があり、そこに日本政府の朝鮮人追い出し政策と北朝鮮政府の労働力補充政策が作用した。帰国者には、日本での絶対的困窮と侮蔑的な民族差別から脱出したいという消極的な選択とともに、民族的愛国心から北朝鮮の国家建設に参加したいという積極的な意思もあった。そのうえ、社会主義への幻想に惑い、「地上の楽園」宣伝に踊らされて、最初の二年間に七万六千人が殺到して帰国船に乗るというブームが起きた。しかし、北朝鮮社会の実態が分かるにつれ、帰国熱はすぐに冷めた。

帰国者の多くは、思想・言動・生活すべてが統制される北朝鮮の全体主義社会に適応することが難しく、北朝鮮社会の生活水準の低さに幻滅した。さらに、日本からの帰国者は資本主義社会の自由思想に染まっており、日本や韓国と人脈がつながっている潜在的スパイ分子とみなきれ、体制的不純者として要監視対象とされた。

北朝鮮政府は、帰国者を「人質」「金づる」として利用し、ほとんどが帰国者を家族に持つ朝鮮総聯の幹部・構成員の活動を統制し、金銭や物資の献納を強いているありさまだ。また、北朝鮮当局は、帰国者の日本への自由往来を認めていないので、新たな離散家族状況が生まれた。

結局、帰国事業によって、朝鮮総聯は九万人の肉親を人質に取られることにより、丸ごと北朝鮮政権のとりこにされてしまったということができる。

北朝鮮帰国事業は、六八年から三年間中断した後、七一年から再開されたが、その後の帰国者は、北朝鮮政府からの要求にもとづく、総聯幹部・有力商工人の子弟、技術者集団、学生青年グループの強制的な送り込みや、政治的処分としての召喚といったもので、人数も先細りとなっていき、現在は帰国事業の形式だけは残っているものの帰国者はほとんどいない。そのかわり、祖国往来運動として、家族訪問のための短期訪問団事業や、活動家・学生青年の祖国研修事業が活発に行なわれている。

Q9:朝鮮総聯の最近の動きは?

朝鮮総聯は、朝鮮語と日本語の二重世界である。組織内や民族学校での公用語は朝鮮語であり、それは、「偉大な首領(金日成のこと)」「親愛なる指導者同志(金正日のこと)」などの政治言語が充満したイデオロギー世界である。

一方、日常の生活言語は日本語であり、そこでは日本社会の自由主義、民主主義を謳歌している。この奇妙なバイ・リンガルによって、観念の分裂を調和してきたのである。しかし、今や朝鮮総聯の思考、行動において、日本語世界の風が朝鮮語世界の風を圧倒しつつある。

昨年十一月の朝鮮総職中央委員会拡大会議は、在日同胞の権利と生活問題を単独議題として討議し、1:民族教育の権利の擁護・拡大、2:在日朝鮮商工人の企業権の擁護と企業活動の支援、3:在日朝鮮人に対する法制度上の差別の是正、4:冠婚葬祭や日常生活上の問題解決、5:朝鮮人強制連行真相調査活動の強化、の五つが当面の朝鮮総聯の緊急課題であると強調している。五番目の課題の強制連行真相調査活動は、日朝会談(日本と北朝鮮の国交正常化のための政府間交渉)における賠償問題をにらんだものであるが、その他の四つの課題に示されているように、朝鮮総聯の最近の運動の方向は、従来の「北朝鮮帰国」から「日本定住」に針路を変えつつある。北朝鮮政権への忠誠に明け暮れしているうちに肝心の北朝鮮帰国者はいなくなり、民族学校の生徒数も長期低落してしまった。「金日成万歳」よりも現実の生活課題を優先しなければ、組織の屋台骨そのものが維持できなくなったのである。

朝鮮総聯は、民族学校に生徒を呼び戻すために、一昨年から三カ年計画で、民族学校のカリキュラムと教科書を全面的に改編して「北朝鮮公民」教育から「日本共生」教育に転換していくとともに、日本政府・自治体からの教育費の公的援助の拡大・獲得をめざす運動を大々的に展開しはじめている。

日本政府から金をもらうということは、日本政府からの規制も応分に受け入れるということだ。これは客観的にみれば、まさに北朝鮮離れということにほかならない。

また、「同胞の権利は同胞の手で」というスローガンの下に、今年の二月には朝鮮総聯のなかに法律専門家らによる「在日本朝鮮人権協会」を結成した。これまで日本共産党系の「在日朝鮮人の人権を守る会」や、日本社会党の「在日朝鮮人・人権セミナー」に頼ってきた法律面での活動も、自前でやっていこうというものだ。これも、定住化路線の一端である。

Q10:日朝国交樹立後の朝鮮総聯は?

日本が北朝鮮と国交を結ぶと、北朝鮮政府は、韓国政府と同等の立場で在日国民政策を展開できるようになる。それまでの「未承認」というハンディがなくなって、フェアな競争が始まるわけだ。

まず、在日同胞の法的地位上の変化として、日本において北朝鮮の国籍が実効化する。つまり、朝鮮民主主義人民共和国が国として認められ、北朝鮮のパスポートが通用するようになり、北朝鮮の法律が適用されるようになるということだ。北朝鮮は日本に在外公館(大使館・領事館)を設置し、在日朝鮮人に対して「在外公民登録」を実施し、公民登録した者にはパスポートを発給することになろう。本国の二つの国籍法により、法文上は北朝鮮と韓国の二重国籍状態にある在日韓国・朝鮮人は、現在の片面的国交下では、韓国国籍しか実効的にならなかったものが、両面的国交になれば、当人の意思により、北朝鮮であれ韓国であれ自由にどちらかの国籍を実効化できるようになる。要するに、好きな方の国に国民登録をしてパスポートを発給してもらえばよいからだ。

日本政府は、在日韓国・朝鮮人に対して、どちらか一つの国籍の選択を迫り、当人が提出した国籍証明書(在外国民登録証かパスポート)によって国籍を判断し、適用すべき本国法を決めることになるだろう。

もっとも北朝鮮の本国法といっても、日本の行政や裁判所が適用するのは国籍法や家族法などの身分法規に限定される(たとえば、相続の規定など)。その他の北朝鮮国内法は、北朝鮮の領土主権は日本に及ばない(直接に統治権を行使できない)のであるから、北朝鮮憲法がどんな義務を課していようと、北朝鮮刑法にどんな規定があろうと、北朝鮮民法が私有財産に制限を加えていようと、日本では実効性がない。

たとえば、北朝鮮の土地法では個人の土地所有が認められていないので、北朝鮮国籍を持つ在日朝鮮人の日本での土地所有権が北朝鮮政府に取り上げられてしまうなどというデマをとばす者もいるが、北朝鮮土地法の対象となる土地とは北朝鮮領土内の土地であって、外国の土地について北朝鮮政府が権力を行使できるわけがない。また北朝鮮の兵役法が在外公民に対しても兵役の義務を課したとしても、在日朝鮮人が応じなければ強制する方法はない。ただ、パスポート発給などの領事サービスを停止する対抗手段が取れる程度だ。

これまで総聯系の在日朝鮮人は北朝鮮の海外公民だといっても、北朝鮮の国家権力が及ばない「安全地帯」の日本にいた。それが、国交樹立により、日本国内に北朝鮮の公館ができ、北朝鮮の身分法規が適用され、その全体主義体制が身近に接近してくることになる。今のように国籍選択があいまいな状態から、本人の主体的意思での選択が迫られると、かえって朝鮮総聯傘下の同胞の北朝鮮忌避が促進されるだろう。

また、北朝鮮の駐日公館が設置されることにより、朝鮮総聯は北朝鮮の党・政府の出先機関としての役割がなくなる。在日同胞の民族的大衆団体としても、北朝鮮政府に直接的に引き回され、組織としての自主性が萎縮してしまうだろう。

もちろん、国交樹立により、北朝鮮との交流が活発になり結び付きが強まることによって、朝鮮総聯の活動が活性化することもあろうが、結局は、本国への従属と在日の自主性の軋蝶という矛盾がいっそう表面化するだけだ。つまるところ、北朝鮮が民主化されるか、北朝鮮の独裁政権と手を切るか、そのどちらかしか朝鮮総聯の将来はない。

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