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もう一つの工作船事件 覚醒剤密輸

(産経新聞朝刊 平成14年12月31日)

北と暴力団結ぶ、アジアマフィア

鹿児島県奄美大島沖で沈没し、九月に引き揚げられた北朝鮮の工作船。この船と同一と断定された北朝鮮の偽装漁船「第十二松神丸」による平成十年の覚醒(かくせい)剤の洋上取引事件を追うと、日本の暴力団やアジアのマフィアが介在した覚醒剤の密輸ルートが浮上してくる。日本近海に相次いで出没した不審船・工作船の目的は何だったのか。海上保安庁の調べや関係者の証言をもとに「もう一つの工作船事件」の背後関係を追った。

【合言葉】

≪「バーバー」、赤と黒の旗も≫

東シナ海、平成十年八月十二日午後四時。日本の暴力団員ら四人が乗り込んだ漁船「玉丸」が、北緯三〇度、東経一二五度三〇分の地点に接近していた。

二日前の夜に鹿児島県枕崎港を出港した玉丸は、外国人の取引相手から事前に知らされた「ランデブー・ポイント」に向かっていた。

洋上に赤い旗を立てた偽装漁船が見えてきた。その旗が相手を識別する目印。玉丸側もすかさず約束の黒旗を掲げた。

同時に無線機のスイッチを入れて約束の周波数に合わせる。合言葉は「バーバー」。無線機から「バーバー」という声が聞こえてきた。「取引相手だ」。玉丸は赤旗の船に近づいた。

その偽装漁船の船尾には「第十二松神丸」という文字があった。乗組員は十二人。朝鮮語を話し、表情は明らかに日本人と異なっていた。組員らの前に「北朝鮮の人間」が現れた瞬間だった。

相手の乗組員のうち七人が、玉丸に荷物を投げ入れ始めた。覚醒剤が入ったポリ袋が計十五袋。総量約三百キロ(末端価格約百八十億円相当)にのぼった。

【交渉】

≪中国人?ブローカーが暗躍≫

洋上取引に先立ち、玉丸側の背後にいたリーダー格、住吉会系暴力団組長は平成九年七月以降、台湾、香港、フィリピンへ渡航を繰り返していた。直前の十年六月には、他のメンバーとともに香港や台湾に頻繁に渡っている。覚醒剤の仕入れ交渉のためだった。

共犯の一人、山口組系暴力団組員は、リーダー格の組長から「香港に行って接触ポイントを打ち合わせてほしい」と指示され、十年六月、香港に渡っていた。

香港のホテルで待っていたのは、中国人とみられる四十歳くらいの男。この“中国人”が組員に海図を見せ、片言の日本語で「ここまで来られるか」と接触ポイントを指定。取引相手の船名やランデブーの方法を説明したという。

さらに、玉丸の犯行グループは台湾などで、朝鮮人らしい名前の男とも接触していた。この男は中国人らしい男の知人で、台湾などで行動を共にしていたという。

日本の暴力団グループが香港や台湾で接触したこれら“中国人”らは、いったい何者だったのか。

海上保安庁は「日本のヤクザが北朝鮮の工作機関と直接やり取りしているとは考えにくい。覚醒剤や銃器の密輸で北朝鮮の工作機関と日本側のパイプ役を果たす“国際ブローカー”のマフィアではないか」と推測している。

香港、台湾、フィリピンなどに覚醒剤の入手ルートを求める日本の暴力団。外貨獲得などのために覚醒剤密輸に携わる北朝鮮の工作機関。そして、両者の間に介在し、暗躍するアジアの犯罪組織のブローカー。

【犯罪網】

≪プリペイド携帯使い連絡≫

平成十年の第十二松神丸事件では、玉丸に乗っていた暴力団組員らが逮捕されたが、“中国人”や朝鮮名を持つ男らの存在は解明されていない。

さらに、これら国際ブローカーと香港や台湾で接触し、北朝鮮国内で覚醒剤の梱包(こんぽう)作業に実際に携わったとみられる日本の暴力団関係者も逮捕されないままだ。

平成十三年十二月、奄美大島沖。銃撃戦の末に沈没した北朝鮮の工作船、すなわち第十二松神丸からは、携行型地対空ミサイルなどの武器とともに、プリペイド式携帯電話が見つかった。交信記録を分析した結果、日本の暴力団関係者らと頻繁に連絡を取っていたことが判明している。

工作船から覚醒剤は見つからなかったが、逃走中にドラム缶を海に投げ捨てていたことから、海保などは「北朝鮮からの薬物密輸にかかわっていた疑いが濃い」として捜査を続けている。

工作船は平成十年の事件と同じ目的で航行していたのか。背後にいるのは誰か。アジアにまたがる犯罪網の全容解明が期待される。

≪「第12松神丸」事件≫

平成10年8月23日以降、高知県沖の海上でポリ袋に入った覚醒剤が相次いで見つかったのを端緒に密輸未遂が発覚。住吉会系暴力団組長ら6人が逮捕された。「玉丸」に乗った組員らは東シナ海上で、北朝鮮の「第12松神丸」から覚醒剤約300キロを受け取ったが、海上保安庁などの追跡にあい、高知県窪川町沖で覚醒剤を投棄。捜査当局は覚醒剤を北朝鮮製と断定した。

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