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ペクトラジ(白桔梗)――北朝鮮におけるアヘン栽培の実態5

(『RENK』第17号 1999.3.1)

朴東明(パク・ドンミョン)

5.《ペクトラジ》の密輸と密売

今日、世界中で、密輸・密売物資の第一位を占めているのは、やはり麻薬関連のものだろう。そして、北朝鮮もまた、アヘンを組織的・計画的に栽培している以上、密輸・密売に無関係ではあり得ない。

◆北朝鮮住民による麻薬密売の形態

北朝鮮では日ごろ、麻薬を服用する者や麻薬中毒者の姿を目にすることはない。というのも、人々の間には麻薬の害毒性に関する宣伝が深く浸透しており、また法的な取り締まりも非常に厳しいからである。したがって、麻薬の密売を行うような者も、基本的には存在しなかった。

ところが、外貨稼ぎ機関、企業所で《ペクトラジ》を専門に栽培するようになって以来、それほど大がかりではないとはいえ、一般の住民の中にもアヘンの密売行為が目につくようになり出した。

アヘンの密売は、だいたい以下の三つの形態で行われている。

第一には、アヘンを栽培・管理する関係機関の職員や労働者が職場のアヘンを違法にくすね、内々に密売する形態。第二には、アヘンの栽培・管理に直接かかわってはいない者が、夜中にアヘン畑に侵入してアヘンの頭部を切り取り、密かにアヘン汁を搾って「生アヘン」のような状態にした上で密売する形態。第三には、党組織や司法機関の目を逃れ、自分で密かにアヘンを栽培し、汁を搾って密売する形態である。

とはいえ、密売の相手が同じ北朝鮮の一般住民であることはほとんどない。安全部に発覚しやすいという理由もあるが、何よりも北朝鮮の人々にとって、切実な欲求は麻薬などではなく、食糧だからである。それゆえ、麻薬の密売相手は国外、とりわけ隣国の中国ということになってくる。その意味では、密売はすなわち密輸なのである。

アヘンに対する国外の密輸業者らの要求は、常に存在する。そこで、咸鏡北道、両江道、慈江道など、中国国境沿いに住んでいる住民の中には、アヘンの栽培・管理に従事する者に密かにわたりをつけ、アヘン1・に対して北朝鮮ウォンで30〜40ウォンという安値で買収しては、北朝鮮に出入りしている中国人行商人や密輸業者らに高値で転売するのである。

もちろん、こうした麻薬の密輸は中国でも大きな問題となっている。最近の事例を挙げると、1998年8月、中国吉林省のある公安派出所では、近々北朝鮮から麻薬が密輸されるという情報を入手し、関係する交通網を封鎖して徹底的に捜査を繰り広げた。これ自体はまずいことではないのだが、不運にも、その際逮捕されたほとんどは、餓えやひもじさから食物を求めて豆満江を渡り、中国に入ってきた多くの北朝鮮難民だったのである。

また、これは伝聞だが、咸鏡北道茂山郡のある住民は、食糧不足を解決する手段を麻薬密輸に求め、アヘン栽培関係者を探しまわって品物を買い入れたものの、当初中国の密輸業者に約束した数量よりも大きく不足してしまった。そこで、彼は「餅」を粉にして麻薬に混ぜ、量を水増ししたのである。彼は豆満江を渡って中国人密輸業者と落ち合ったところで、中国公安当局に逮捕されてしまった。だが、公安当局が品物を調べたところ、ほとんどが麻薬ではなく「餅」と判明したため、厳罰を免れ、北朝鮮に移管された……。

ここまでは、運・不運で言えば、幸運な部類かも知れない。しかし、後が悪かった。北朝鮮の保衛部(秘密警察)は彼に、「麻薬密輸によって北朝鮮の権威、金正日将軍の権威を毀損した」という仰々しい罪名を付け、監獄に入れてしまったのである。結局、彼は監獄に入れられ、栄養失調で死んでしまったとのことである。

◆国家的な密輸

とはいえ、北朝鮮では、麻薬の密輸は何も一般住民のみに限らない。国家は国家で、ロシアやヨーロッパ諸国、日本、カナダなどに派遣される大使館員や友好組織などを通じて、麻薬の密輸・密売を行っている。このことは、今や世界中の誰もが知っている事実と言わざるを得ない。これまでにも、ロシアやヨーロッパ諸国に駐在する大使館員が麻薬の密輸・密売を試みて相手国の公安当局に逮捕され、追放処分を受けた事件が数十回に及んでいる。こうした事件によって相手国

政府から糾弾を受けたことも、一度や二度では済まない。

筆者自身、北朝鮮にいるとき、アヘン栽培関係者の話を聞いたことがあったが、それによれば、麻薬の密輸・密売の対象となる国はとくに限定されていないものの、やはり先に挙げたような資本主義国には麻薬中毒者が多いので、麻薬の需要も多いという。これらの国では、アヘン1・が1万〜1万5000ドルにもなるとのことだ。

ただし、麻薬に絡んだ社会問題が広がるに連れ、世界のどの国も麻薬の密輸・密売を厳しく取り締まり、普段から警戒心を高めているので、たとえ大使館や合法的な諸組織を通じて極秘裏に密輸を行おうとしても、状況はだんだん難しくなっいる。そのため、すでに当時でも、党中央委員会から指示された麻薬密売計画を計画通りに実行できない状態になっていたという。

もちろん、北朝鮮ではこうした活動は極秘裏に推進されるため、一般の住民が事情を知る機会は限られる。また、国外からの情報は厳しく統制されているので、事件が発覚してもそれを知ることは困難だ。筆者も、こちら(中国)に来てあらためて、国家的な麻薬の密売・密輸が事実であり、大きなひんしゅくを買っていることが分かった。本当に恥ずべきことだと思う。

おそらく、金正日をはじめ北朝鮮の権力者たちは、自分たちが他の国からどれほど悪い評判を持たれているか、分からないのだろう。事実から言えば、「北朝鮮の権威、金正日将軍の権威」などとっくの昔に「毀損」され尽くしてしまったというのに……。

結び

今日、世界中で、麻薬は人類社会の非常に大きな心配の種になっている。

もちろん、すでにあらゆる国々が麻薬取締りに神経を尖らせているし、麻薬の栽培・製造に関係する組織に対しても、常に国際的な監視の目が注がれている。いかなる者であれ麻薬の密輸・密売を生業にする者には、全世界から厳しい糾弾と制裁を浴びないわけにはいかない。北朝鮮の大使館員も例外ではあり得ないのだ。

筆者が以前ラジオで聴いたことだが、日本のある放送局は米国発の情報を引用する形で、北朝鮮における麻薬栽培の状況について次のように報道していた。

「北朝鮮はこれまで、およそ10年間にわたって麻薬を栽培・製造してきた。1992年には400ha、1997年には1000haの面積でアヘンを栽培し、今後数年間で3000〜5000ha程度にまで大規模拡大を行うことが予想される。あわせて、平壌市の周辺には100トンクラスの麻薬製造工場が建設される模様である」

この予測が正しいとすれば、驚くべきことだ。北朝鮮の耕地の総面積は、約200万haである。今後、3000〜5000haもの耕地をアヘン畑に転換するとなれば、それは耕地の総面積の40分の1に相当する。しかも、すでに見たように、北朝鮮ではアヘン畑には最も肥沃な士地があてられ、可能な限り多くの営農資材や労働力が投下される。

もしも、これらの耕地がアヘン畑に転換されず、穀物生産に用いられるならば、ここから上がる穀物生産量は概算で7万2000トン程度にはなるはずだ。そして、もしもこれだけの食糧があれば、北朝鮮の子どもの総人口500万の10分の1に当たる、50万名の子どもたちを1年間、十分食べさせることができるだろう。

しかし、現実には、残念ながら限りある国土や貴重な国家財産、優秀な人材が、麻薬の栽培や密輸・密売にあてられ、あろうことかその比重はますます高くなろうとしている。

考えても見てほしい。かつてはいざ知らず、現代の世界では、およそ国家を名乗るものが組織的・計画的に麻薬の栽培や密輸・密売を行う例などはなく、まして密輸・密売で深刻な経済難の解決をはかるなど、あってはならないことである。

昨今の極度の食糧難によって、北朝鮮では200万人以上が飢え死にするような状態に立ち至ってしまった。もはや、国際社会の援助がなければ到底、立ち上がろうにも立ち上がれない境遇にある。にもかかわらず、アヘンの栽培や密輸・密売をやめないようであれば、それはまさに人類と国際社会に対する挑戦にほかならず、結局は国際社会と救援機関、良心ある世界の人々から見離されることになる。言うまでもなく、その際に最も被害を受けるのは、金正日をはじめとする権力者ではなく、北朝鮮の無辜の住民なのである。

ともあれ、北朝鮮当局がこれ以上民族の魂を離れ、麻薬犯罪を重ねることのないよう、強く戒めなながら、この文を終えたい。

1998年12月

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