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ペクトラジ(白桔梗)――北朝鮮におけるアヘン栽培の実態4

(『RENK』第17号 1999.3.1)

朴東明(パク・ドンミョン)

4.外貨稼ぎ機関、企業所における《ペクトラジ》の栽培

◆《ペクトラジ》生産のための政治組織活動

北朝鮮では、ある生産計画が党中央委員会で承認され、機関、企業所に下達されると、どの部門でもそれを支えるために、政治工作や思想工作など政治組織活動を行う。とりわけ、《ペクトラジ》生産計画を完遂するにあたっては、政治面での宣伝・扇動活動を綿密に行い、動員された人々にアヘン生産に対する創造性を発揮させることが義務付けられる。生産者大衆の創造性を発揮させるには、《ペクトラジ》生産の目的と意義についてしっかりと理解させることが最も重要である。

しかし、《ペクトラジ》は麻薬であり、麻薬は人々を精神的に堕落させ、人々の健康を著しく害して国際的犯罪を発生させる物質である。とすれば、人々に対する宣伝・扇動活動はどのように行われるのだろうか。

先ず、外貨稼ぎ機関、企業所の生産者と《ペクトラジ》生産のため動員されてくる住民の組織別の各種会議を開き、次のとおり力説する。

「今日、われわれは米帝と南朝鮮傀儡の武力侵攻策動と経済封鎖による非常に困難な状況下で革命と建設を進めている。偉大な金正日将軍におかれては、こうした中で、わが人民の生活をより一層引き上げるため、自身の誕生日も忘れ、雨が降ろうと雪が降ろうと現地指導を継続されている。われわれが金正日将軍の心配を減らしてさし上げるには、どうしなければならないか? 言わずもがな、将軍が与えて下さった革命課題を無条件に遂行しなければならない。偉大な将軍は、われわれ外貨稼ぎ生産者に『ペクトラジ』を生産して党資金を準備することについての貴重な教えを下さった。この栄誉ある課題を遂行するため、われわれは将軍のお言葉を貫徹する道では死ぬも栄光、生きるも栄光という鉄石のごとき信念を保持し、われわれに任された『ぺクトラジ』生産計画を無条件で遂行しなければならない……」

続いて、あらかじめ指示を与えておいた数人の生産者に決意表明の討論をさせ、スローガンを叫んで金正日を称える歌を歌ったりする。こうして、《ペクトラジ》生産の真の目的や使途などは知らぬまま、とにかく無条件で生産することが義務であると吹き込む。とはいえ、政治宣伝・扇動活動がどうあろうと、人々は《ペクトラジ》が外貨獲得のために密輸されることなど百も承知である。

◆経済組織活動

先にも少し触れたが、市・郡党委員会は傘下の党組織や行政組織に指示し、5号管理部や外貨稼ぎ事業所の《ペクトラジ》生産に関して、様々な配慮を優先的に行っている。

《ペクトラジ》はほかの農作物と同様、肥沃な土壌でのみ高い収穫を上げることができる。そこで市・郡党委員会では、5号管理部に良い土地を譲るよう協同農場の党委員会などに命じた。党への忠実性にかけて命じられた上級党組織の指示であれば、幹部連中はたとえ協同農場の穀物生産に莫大な支障があろうと、従うほかに道はない。下級の機関、企業所の人事権はすべて市・郡党委員会の幹部に握られており、彼らに睨まれたら終わりなのである。

また、5号管理部や外貨稼ぎ機関、企業所は市・郡党委員会の支援を背景に、市・郡内の機関、企業所ごとに労働力の確保、資材の確保、アヘン栽培に関する技術提供など、具体的な経済組織計画を立て、協力を強いる。とくに、固定の労働力をもたない管理職だけの5号管理部は、地方外貨稼ぎ事業所とは違い党機関の傘下にあるという条件を利用し、市・郡内の機関、企業所の労働者から人民班の女性、高等中学校の学生にいたるまで、くまなく動員することができる。

あるいは、5号管理部に対しては、党中央委員会39号部署が直々に、下部単位に至るまで各資材を無条件で供給する態勢をとっている。耕作や輸送に必要なガソリン、化学肥料など、あらゆる営農資材を外国から輸入し、党中央委員会39号部署傘下の資材供給所を通じて最優先で与えているのである。

したがって、他の機関、企業所では資材がなくて操業ができず、燃料がなくて自動車が運行できなくても、5号管理部の運営は何ら滞りなく、輸送・流通はフル稼働である。また、一般の協同農場では農耕用ガソリンが不足して耕作できず、種まきが遅れたとしても、5号管理部の管轄する農場では、そうしたことは起こり得ない。

◆《ペクトラジ》栽培の手順

《ペクトラジ》栽培の手順はおおまかに、播種段階、苗の間引きおよび除草段階、汁搾り段階、と分けることができる。

播種段階:《ペクトラジ》の種まきは各地方ごとに異なるものの、だいたい4月から5月にかけて行われる。

畑を耕して畝ごとに原肥、肥料をまんべんなく施した後、ゴマ粒より小さい《ペクトラジ》の種を砂と混ぜて畝ごとにまいていく。

播種はこれで終わりである。一坪当たり50株程度のアヘンが発芽するようにまくのが望ましいとされるが、これは非常に難しい。というのも、北朝鮮では4、5月は旱魃が甚だしく、強風にさらされて表土が干上がってしまい、農作物の発芽率に大きな支障を及ぼすからだ。

この時期恒例となっている「旱魃との闘争」は、まったく壮観である。ふだんは事務室に座って保身に努めていた、5号管理部や外貨稼ぎ事業所の幹部らはもちろん、市・郡党委員会の幹部までが奮い立って住民を動員し、畑の灌水に没頭するからだ。

そうして、あらゆる灌漑水用の機械設備を稼働させ、特別の灌水パイプをずらりと並べてアヘン畑を湿らせる。アヘン畑に使用される灌水パイプは特別製で、一般の協同農場では使うことが非常に難しいが、外貨稼ぎ事業所と5号管理部は例外である。

ところで、そもそも「チュチェ農法」にしたがってすべての農作物を栽培管理しようとするなら、育苗の段階で栄養鉢を作るのが原則である。しかし、アヘンの苗は生育上の特性として、栄養鉢での栽培は困難だ。様々な技術者が、「チュチェ農法」の指示どおりにアヘンの苗を栄養鉢で育てようと試みたが、発芽率こそよいものの畑に移植するとたちまち成長率が落ち、直播に劣るという結果が出た。どうやら、《ペクトラジ》は「首領様」が教えてくれた「チュチェ農法」に真っ向から挑戦しているようだ。

この時期、定期的な労働動員を求められるのは、機関、企業所の労働者、高等中学校の学生、人民班の女性たちである。

苗の間引きおよび除草段階:5月初めになると、群生した苗の間引き、そして除草が不可欠である。ここで求められるのは、群生した頑丈な株を中心にしてそれぞれの株の間隔を10cmに保ちながら、一坪当たりの株数を50株以上にしないよう保つことだ。もっとも、大勢の人々を動員して優先的に作業するため、《ペクトラジ》の畑はいつも管理が行き届いている。

しかし、動員された人々は賑やかに作業をしながらも、向こう側に広がる協同農場のトウモロコシ畑を眺めた途端、落胆を隠せなくなる。「農場の畑は私の畑だ!」「皆が除草戦闘に!」――スローガンが張り出された広い畑には、汗びっしょりで草取りをする数人の女性しかいない。道路一つを隔てただけにもかかわらず、5号管理部のアヘン畑と協同農場のトウモロコシ畑では、明らかな違いが見てとれる。黒々として草一つない5号管理部のアヘン畑に比べ、パサパサに乾いたトウモロコシ畑は雑草だらけである。草取りをする女性たちも、両手で雑草を握って根を抜こうとしても尻餅をつくだけだ。

こうした光景を横目に、一日の作業を終えて家路につく人々は、こう洩らす。「トウモロコシ畑にもアヘン畑ぐらい投資すれば、大豊作は間違いないのに……」

ともあれ、この段階で、畑には2〜3回の施肥を行う。汁搾り段階:5月も終わりを迎えると、アヘンの花も盛りを過ぎ、花が落ちてアヘンの頭部が育つようになる。この頃から、汁搾りがはじまる。気をつけねばならないのは、アヘン頭部を割くために刃物を入れる際、その深さ間違えないこと、また、分泌するアヘン汁をわずかでもこぼさないように受けることだ。

汁搾り作業は2人が一組になり、1人が前に出て刃物でアヘンの頭部を割きながら、後のもう1人がすかさずコップを差し出し、割けた頭部から分泌した汁を指で拭ってコップに入れる。こうやって、一株のアヘンから5〜6回、汁を搾ることができる。

汁搾りに動員されるのは、工場、企業所の独身女性や高等中学校の学生たちで、彼らは定められた宿舎で集団で寝起きし、厳しい監視の中で作業を進める。それはもちろん、労働能率を高める利点もあるが、むしろアヘンの流出を防ぐという目的の方が比重が高いはずである。動員人数は、だいたい100〜150名くらいだが、栽培面積が大規模な場合は300〜400名ということもある。彼ら彼女らは、夜明けから日暮れまで、実に毎日13〜14時間ほども汁搾りをする。汁搾りを終えると、アヘンの茎をすべて刈り入れてチンキを作り、薬品供給所に売り払う。

以上、一目瞭然、社会的に見ても驚くほど大量の労働力と膨大な時間が、麻薬作りに費やされていることが分かる。

◆汁搾りにまつわるエピソード

繰り返しになるが、《ペクトラジ》の汁搾りに動員された人々は最初、何はなくとも、5号管理部の幹部連中による思想宣伝を聞かされることになる。

「トンムたち! 今日、われわれは偉大な将軍の大きな愛と配慮により、偉大な将軍の『忠誠の党資金』を作るための外貨稼ぎ戦闘に動員された。われわれが偉大な将軍を忠誠と真心で高く敬慕しようと思うなら、1・でも多くの《ペクトラジ》汁を搾って党の資金作りに寄与しなければならない。それゆえにこそ、ここに動員されたわれわれすべてが標準操作法どおりに《ペクトラジ》汁を搾り、1・でも多く汁を搾るために努力し、1・たりといえども流出させはしないという気持ちで、すべてを捧げなければならない……」

つづいて、アヘン汁搾りかかわる技術上の留意点が細かく教えられた後、アヘン汁の流出が起こり得るケースが実例を挙げて紹介され、くれぐれも間違いないように、との「念押し」がなされる。

「《ペクトラジ》汁搾りに動員された人々の一部には、あろうことか、汁を搾る途中で人目を避けて幾らかをくすねて家に持ち帰る傾向があり、大腸炎に罹ったと言って《ペクトラジ》汁を飲む現象まで現れている。

こうした現象は、将軍の愛と御配慮によって、世上に羨むもののない幸福な生活を営んできたわれわれとしては、余りにも恩に背いた徳のない愚かな振る舞いである。こうした現象は絶対に容赦できない。《ペクトラジ》汁搾りに動員された人々は高い警戒心を持ち、こうした現象が現れた場合にはその都度、幹部に知らせて事件、事故が起きないよう対策を講じなければならない……」

このように、思想動員演説と流出現象に対する注意があるにもかかわらず、時おり騒動が持ち上がる。以下は知人からの伝聞だが、汁搾りに動員された経験のある者なら誰でも、多かれ少なかれ似たようなエピソードを聞いたことがあるはずだ。そこで、参考までに紹介しておこう。

***

ある娘は、アへン汁搾りに動員される前から大腸炎に罹っていたが、動員されて以降症状は悪化し、仕事をする力もなく、トイレに出たり入ったりして苦しんでいた。

「私、何だかお腹がずっと痛くて下痢がひどいの。薬を飲んでもぜんぜんよくならないのよ」

娘の友人は心配そうに言葉を返した。

「家にいる時はそんなにひどくなかったのに……」

「ええ、ここに来てから大変なの。仕事をする元気もないわ」

よそから動員されてきた娘なので、ここで飲んだ水が合わなかったようだ。

「あなた、早めに交替したほうがいいわよ」

だが、担当者は聞き入れてくれるだろうか。娘の様子を見かねた友人は、ここであることを思いついた。

「そうそう、あなた、アヘンの汁を少し飲んでみたら……」

「えっ、こんなムカムカする匂いなのに、どうやって飲むのよ。それに、幹部だって行ったり来たりしながら目を光らせてるんだから……」

一日中アヘン汁を搾っていれば、アヘン汁のむかつく匂いで頭がぐらぐらし、ひどい時には吐き気がして夜も眠れない。もちろん、慣れてしまえば話は別だが……

「でも、ずっと我慢してるよりはましじゃないの。こっそり飲めばわからないわよ」

そう言われてみると、アヘンの茎は腰の高さまで育っており、隠れていれば監視の目は避けられるように思われた。娘はアヘン汁の入ったコップを手に持ち、恐る恐る口に含んだ。だが、何も変わらない。そこで、次にはもう少し、また次にはもう少しと飲んだあげく、娘はとつぜん地面に倒れ込んでしまった。

「ああっ、どうしたの! 大丈夫!」

叫び声とともに、友人はぐったりと伏せている娘に走り寄った。もちろん、その後ろからは管理担当者たちが……。こうして娘は病院に送られ、具合はよくなったものの即座に動員を解除され、思想闘争の対象にされてしまった。

***

また、ある娘は、アヘンが大腸炎沿療に効くと聞き、日ごろ大腸炎で苦しんでいる両親を思うようになった。機会を窺うことしばし、娘は作業の途中、予め用意しておいた小瓶にアヘン汁を入れてこっそりと宿舎に持ち帰り、カバンの中に隠しておいた。

ところが、翌日、管理担当者が抜き打ちで人々の荷物を検査してみると、娘のカバンから出てきたのは例の小瓶であった。娘はすぐさま、管理担当者に呼び出された。

「おい、これは何だ」

「……」

「何だと訊いてるんだ!」

管理担当者は、アヘン汁の入った小瓶を突きつけ、問い質した。

「《ペクトラジ》です」

消え入りそうな娘の声が返ってきた。

「これを盗めばどうなるか、知ってるだろう。意図的にやったのか?」

「家で父が大腸炎で苦しんでいるんです。持って行ってあげようと……」

「自分がやったことが分かっているのか。少量とはいえ、それだけ党の資金作りに支障を来すんだぞ。それを知らないから、こんなことをして……。とにかく、組織の前でしっかり自己批判を行い、企業所に戻りなさい!」

結局、彼女は大勢の前で自己批判を行い、直ちに所属の企業所へと追い返されてしまった。

***

ただ、一部にこうした騒動が生じるとしても、アヘン汁搾りに動員された人々の大部分は、精を尽くして作業をする。というのも、作業所別にアヘン汁をより多く搾るよう競争させ、その順位によって賞品を出すようにしているからだ。人々はよりよい賞品を得ようとして、他の作業所に遅れてなるかと懸命に働く。

賞品は地方ごとに異なるが、一般的には、一等には中国産の掛け布団、最下等級にはナイロン靴下といったところである。ただし、賞品をそのままくれるわけではなく、先の「松茸」の例と同じく、それらを国定価格で買うことのできる「権利」が与えられる。中国産の掛け布団一枚を例にとれば、国定価格は30〜40ウォンなのに比べ、市場価格は300〜400ウォン、差額はおよそ一般労働者の6〜8ヶ月の生活費に匹敵する。

もちろん、よい成果を上げれば「将軍と党に対して忠実な革命戦士」という政治的・思想的な称賛もなされるが、人々の関心がよりよい品物のほうにあることは明らかだ。だから、5号管理部や外貨稼ぎ事業所では予め等級別の賞品を決めておき、人々の欲求を煽り立てるのである。

◆《ペクトラジ》の生産面積と生産量

すでに述べたように、1990年段階では、《ペクトラジ》を栽培していたのは党機関傘下の5号管理部だけであった。この時期の《ペクトラジ》栽培面積は、筆者の居住地域およびその近辺を例にとれば、一つの市・郡単位でだいだい2〜3町歩(約2.5ha)であった。したがって、全国的にみるとおよそ400〜500町歩(約450ha)の面積で、アへンを栽培していた計算になる。(筆者が目にした報告書によれば、この時期、党中央委員会から各市・郡の5号管理部へ、年間100万ドル相当のアヘン生産が可能な生産基地を建設するよう指示がなされ、5号管理部では指示どおりに任務を遂行ししようとたものの、技術の遅れから他の農産物に影響が集中する結果におわったという。)

一つの市・郡単位における一日のアヘン汁生産量を分析すると、だいたい10〜15・だろう。これに汁搾りの期間約30日を掛けると300〜450・となる。これが当該地域における年間アヘン汁収穫量である。しかし、アヘン汁にはおよそ70%の水分が含まれているので、乾燥させて純アヘンにした場合、年間生産量は90〜135・になる。したがって、先に触れた咸鏡南道長津郡のような、専門化した《ペクトラジ》生産基地の付加分を除いても、北朝鮮250カ郡の5号管理部で生産したアヘンの年間総量は、およそ22.5〜33.75トンに達すると見ることができる。

もっとも、1996年以降では、《ペクトラジ》の生産は5号管理部だけでなく、市・郡に属する外貨稼ぎ事業所にまで拡散され、その結果、栽培面積は一挙に約2倍に増えた。したがって、当然、北朝鮮における1996年以降の年間アヘン生産量も約2倍、すなわち45〜67.5トン程度と考えられる。

こうして各地方で生産されたアヘンは、厳重に包装され、党中央委員会39号部署傘下の担当課に送られる。そして、そこから精製工場へ送られ、「製品」として出荷できるようになる。アヘンの精製は平壌市のある製薬工場で極秘裏に進められていると言う。この点については、麻薬精製に使用される薬物「エフェドリン」などが、輸入品として南浦港から平壌近郊にある製薬工場に運搬されているのを見て、知ることができた。

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