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ペクトラジ(白桔梗)――北朝鮮におけるアヘン栽培の実態3

(『RENK』第17号 1999.3.1)

朴東明(パク・ドンミョン)

3.アヘン栽培は国営外貨稼ぎ機関、企業所から

◆5号管理部と外貨稼ぎ事業所

北朝鮮では、各市・郡ごとに「外貨稼ぎ機関」である5号管理部と「外貨稼ぎ事業所」がある。両者は外貨稼ぎをするという面では共通性を持っているが、その使命と管理運営方式は根本的に異なっている。

市・郡の外貨稼ぎ事業所は、市・郡の行政委員会の指導の下に事業所自体が労働力を持ち、金、銀、犬皮、兎皮、蚕の繭、一部の山菜や食料品のような地元の特産物を利用して外貨稼ぎを行い、地元の人民の生活向上を目的として管理運営されている。

したがって、この事業所の機構構成は一般企業所と同じで、操業員数は市・郡の規模によって異なるが、ほぼ200〜300名の3級企業所に該当する。

他方、5号管理部は市・郡の党委員会の直属機関であり、人民生活とは無関係に市・郡内の機関、企業所党組織を動員し、別途に外貨稼ぎを行う「忠誠の党資金」調達機関である。5号管理部が行う外貨稼ぎの中でも重要な品目は、金、銀、犬皮、兎皮、松茸、シラスウナギである。これらの外貨稼ぎ物資は上級機関を通じて外国に輸出され、外貨に転換される。獲得した外貨の一部は交換商品の輸入代金に当てられ、更に一部は金正日の党資金として蓄積される。

◆5号管理部の内幕

5号管理部の行う外貨稼ぎは、体系立った手順で遂行される。

5号管理部はまず最初に、市・郡党委員会を通じて市・郡内の工場、企業所、協同農場の党組織と勤労団体組織、高等中学校社労青組織に通達し、金、銀、犬皮、兎皮など品目別の計画課題を与える。次に、それら組織の成員を動員して品物を集め、流出しないよう確実に納めさせる。そして最後に一連の活動を総括し、党に対する市・郡党委員会の忠誠の証として、品物の納入と報告を行うのである。

党への忠誠を名目とするため、機関、企業所、協同農場の党組織と勤労団体組織の幹部は、通常の生産計画とは無関係に労働者を現場から引き抜いて金、銀の採取に従事させ、地域世帯には犬皮、兎皮などを無条件納付するよう強要する。 また、この活動が上手くはかどらない場合には、労働者、農場員、学生から強制的に金を取り立て、犬皮、兎皮などを仕入れて5号管理部に差し出す。

こうまでなりふり構わずやるのは何故かと言えば、首尾良く外貨稼ぎを遂行し、機関、企業所などの党組織の幹部連中が忠実性に関して上級機関から高い評価を受けるためである。市・郡内の活動がよければ道党委員会から評価され、道党委員会は中央党から、中央党は金正日から高い評価と感謝を受けるのである。要するに、上役の受けをよくするために労働者や農民、学生らをこき使うわけだ。

しかし、5号管理部はたんに強圧的に命令を下すばかりではない。人々の欲求を巧みに利用しもする。いや、「巧みに」というより、それは人民動員の基本手段かもしれない。

北朝鮮では、一般人民に対する生活必需品の供給は、需要に反して極めて不十分である。国家的供給など全くないと言っても過言ではない。5号管理部はこれ関係を利用し、次のような形で、労働力を無報酬で動員しようとする。

実例として、松茸の収買(国家による買い入れ)を挙げよう。松茸は、党機関傘下の5号管理部だけが独占的に取り扱う外貨稼ぎ物資である。8〜9月の収穫期を迎えると、5号管理部は機関、企業所の労働者と協同農場員、地域住民を動員して松茸を収買し、その日のうちに清津港、元山港、平壌市の順安空港に集め、空・海路で日本に輸送する。

こうした労働の代価として何が支払われるかと言えば、商品を国定価格で販売してもらう「権利」である。収買規定による松茸の等級に従って、一定の商品が国定価格で販売されるのである。

一等級の松茸を収買した場合には、一般労働者の一ヶ月の生活費に匹敵する30〜40ウォンのお金を支払って3〜4・の砂糖や食用油を売ってもらう。販売される商品はキロ数によっても決められている。最高の100・を収買した場合には、カラーテレビ1台を国定価格で売ってもらう。カラーテレビ1台の国定価格は、ものによって異なるが平均3000〜4000ウォンである。

せっかく働いたのに、労賃をもらうならまだしも、なぜ働いた方がお金を出さねばならないのか。実は、これには「からくり」があるのだ。

北朝鮮では国家からの商品供給が全くないが、それを補完するものとして市場・ヤミ市場がある。国営商店と比べれば市場の商品価格は約10倍である。だから、たとえ松茸と労働力を差し出しても、砂糖や食用油、カラーテレビを国定価格で売ってもらい、市場での「公然的密売」に出せば、砂糖は1・120ウォン、食用油は120ウォン、カラーテレビのごときは4〜5万ウォンにもなる。4〜5万ウォンと言えば、一般労働者が貧乏しながら25〜30年かかって稼ぐ収入である。

筆者自身、かつて5号管理部に数日間動員されたことがあり、最終的に洗濯石鹸一個とナイロン靴下一足ではあるが、国定価格で買うことができた。中国産の洗濯石鹸一個は国定価格が2ウォン50チョンだが市場では25〜30ウォン、ナイロン靴下1足は国定価格が10ウォンだが市場価格は100ウォンだった。靴下一つをとっても90ウォンの儲けになった。これは、一般企業所での賃金2ヶ月分に相当する。正直、魅力的だった。

むろん、幹部らはこうした「からくり」を使う必要はない。特権によって、国定価格で商品を買うことができるからだ。人々の間では、国営商店をなくして市場化すれば、幹部の不正腐敗もなくなると確言している。

いずれにせよ、5号管理部の行う「外貨稼ぎ事業」はまともな経済活動とは言いがたい。たしかに、外貨を獲得するには手っ取り早い方法かも知れないが、多くの人員と時間を費やすことで、その間基本的な生産活動は大きく阻害される。そのツケはすべて人民の生活に跳ね返ってくるのである。

だが、それ以上に問題なのは、党や政府機関自らが、国家経済の破綻がもたらす二重経済を是正するどころか、それに乗じて「いかさま」を行っていることである。

以上が北朝鮮の5号管理部と外貨稼ぎ事業所の実態である。

◆アヘンを《ペクトラジ》と命名した張本人

外貨稼ぎ機関、企業所は上記のような形で人々を動員し、外貨稼ぎ物資を集めながら、1990年代に入ると、個人のアヘン栽培を厳しく取り締まる一方で、大々的にアヘンを栽培し始めた。当初、それを活発に推進したのは、党の資金調達機関である5号管理部だった。市・郡党委員会は地域ごとの最良の土地2〜3町歩(約2.5ha)を5号管理部に譲り渡すよう、里党委員会と管理委員会に命じた。こうして、アヘン栽培は外貨稼ぎの大きな計画目標になったのである。その後、1992年になると、地方の外貨稼ぎ事業所はもちろん、人民軍内でも大々的にアヘンを栽培し始めた。

筆者の住んでいた地区には、1993年に咸鏡南道長津郡から移住した住民がいたが、彼の話によると、長津郡では協同農場の全面積を人民武力部に移管し、アヘン畑にしてしまったという。どうやら、長津郡のような交通の不便な内陸地ならば、外国人の目が届かないという理由らしい。

しかし、一国の政府がアヘンを組織的・計画的に栽培しているとわかれば、当然にも、国際的に様々な問題を引き起こさざるを得ない。アヘンが《ペクトラジ》と呼ばれるようになった理由は、おそらくここにあるはずである。というのも、アヘンの花は《ペクトラジ》の花とよく似ているため、かりに問題が生じたところで「アヘンではない」と言い逃れをすることができるからだ。

命名の真相を解明するのは困難だが、ともかく1990年代の初期以降、上級機関から外貨稼ぎ機関、企業所に下りてくる計画書や生産記録日誌などには、実際はアヘンを意味する《ペクトラジ》という言葉が記されるようになった。そして、《ペクトラジ》生産計画達成のために、半ば公然と政治・組織活動が繰り広げられるようになった。これは、党中央委員会がアヘン栽培を承認していることを意味する。

この点は、南朝鮮に亡命した元労働党書記・黄長も認めている。彼の著書『北韓の虚偽と真実』には、麻薬をはじめとする違法な密売、密輸が、金正日の承認によって進められていること、金正日が外貨稼ぎのために党組織や各機関に指示し、《ペクトラジ》という名でアヘンを栽培していることなどが記されている。

考えてみれば、これは当然のことだ。党と国家のすべてが金正日の唯一的指導体系に従属する北朝鮮では、金正日の承認と指示なしには、組織的にアヘン栽培を行うことなどできようはずもないのである。

組織的なアヘン栽培をはじめたのが金正日の党資金調達機関だということは、今や北朝鮮ではだれ一人として知らぬ者のない事実である。《ペクトラジ》という言葉を聞けば、大人はもちろん子供までもが、その象徴として党機関傘下の5号管理部を頭に浮かべるほどだ。しかし他方、人々は長年アヘンなどの麻薬について思想教育を受けているので、麻薬がもたらす有害性や犯罪性についてしっかりとした認識を持っている。それゆえ、「『ペクトラジ』を組織的・計画的に生産してどうしようというのか?」「なぜ有害な麻薬を生産するのか?」といった疑問が生じることは避けられない。

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